荒木俊馬

荒木 俊馬

荒木 俊馬（あらき としま）は、1897年（明治30年）3月20日に生まれ、1978年（昭和53年）7月10日に逝去した日本の著名な天文学者、物理学者です。その専門は天体物理学、理論物理学、そして宇宙論に及び、国内外の研究者との交流を通じて学術の発展に貢献しました。京都大学名誉教授、そして京都産業大学の創設者として初代総長を務めるなど、教育界においても重要な役割を果たしました。

生い立ちと教育

荒木俊馬は、1897年に熊本県鹿本郡来民町（現在の山鹿市）に、荒木竹次郎と記寿夫妻の長男として生を受けました。幼少期を熊本で過ごし、来民尋常小学校を経て熊本市立碩臺尋常小学校を卒業。その後、熊本県立中学済々黌に進み、勉学に励みました。済々黌卒業後、広島高等師範学校理科一部で物理学の基礎を学び、1919年に同校を卒業しました。

さらなる学究を目指し、1920年に京都帝国大学理学部物理学科へ進学。ここでは当時の著名な天文学者であった新城新蔵に師事しました。翌年には宇宙物理学科へ転科し、1923年に京都帝国大学を卒業しました。

研究者・教育者としての歩み

大学卒業後、荒木は母校である京都帝国大学理学部で研究と教育の道を歩み始めます。1923年に講師として着任し、翌1924年には助教授に昇進しました。この年、恩師である新城新蔵の娘、京子氏と結婚しています。助教授時代には、ドイツへ約2年半の留学を果たし、物理学の巨匠アルベルト・アインシュタインから直接指導を受けるという貴重な経験を得ました。この留学は、その後の研究活動に大きな影響を与えたと考えられています。

帰国後、研究成果をまとめ、1929年に論文「セフェイド変光星の大気圏の圧力変化に関する高温電離の理論による研究」を含む5編の論文を提出し、京都大学より理学博士号を取得しました。1941年には同大学の教授に昇任し、日本の天文学・物理学研究を牽引する立場となりました。

戦後と新たな教育の場

第二次世界大戦終結後の1945年、荒木は京都帝国大学を退官しました。戦時中、大日本言論報国会の理事を務めていた経歴から、1947年には公職追放の対象となります。1951年に追放解除となりましたが、京都大学に復帰することはありませんでした。

しかし、教育への情熱は衰えず、1954年には大谷大学教授に就任しました。1964年に大谷大学を退職した後、新たな教育機関の設立に尽力します。1965年に京都産業大学を創設し、初代学長に就任。1969年には初代総長となり、大学の基盤づくりに貢献しました。教育者としての長年の功績が認められ、1974年には京都大学名誉教授の称号が贈られました。また、日本の天文学の発展に貢献した功績により、日本天文学会名誉会員にも選ばれています。

研究業績と思想

天文学者としての主な業績としては、一般向けの啓蒙書を含む多数の天文書を執筆したことが挙げられます。難解な宇宙の知識を分かりやすく解説し、多くの人々に天文学への関心を抱かせました。その著作は、後の世代の科学者や文化人にも影響を与えています。例えば、SF作家の松本零士氏は、荒木の著書『大宇宙の旅』が自身の代表作『銀河鉄道999』を創作する上での重要な着想源となったことを語っています。

また、荒木は天文学者としてだけでなく、保守的な思想を持つ論客としても知られ、言論活動を通じて当時の社会に影響を与えました。

教育者としては、多くの優秀な研究者を育てました。指導学生には、上野季夫、宮本正太郎、芝原鐐一らがいます。さらに、直接の教え子の中から、後にノーベル物理学賞を受賞する湯川秀樹博士や朝永振一郎博士といった世界的にも著名な科学者が輩出されています。

私生活と晩年

荒木俊馬には、長男である荒木雄豪氏がいます。雄豪氏は情報科学者となり、父と同様に京都産業大学で教授を務めました。また、馬術選手としても活躍し、ローマオリンピック（1960年）とメキシコオリンピック（1968年）に日本代表として出場した経歴を持ちます。

荒木俊馬は、1978年7月10日、京都市左京区の自宅で急性心不全により永眠しました。81歳でした。葬儀は同年7月22日に相国寺で、京都産業大学葬として盛大に執り行われ、多くの関係者に見送られました。生前、1976年にはポーランド最高功労十字勲章を受章するなど、国際的な評価も得ています。

主な訳書

イマヌエル・カント 著『宇宙論』（恒星社厚生閣、1952年）
イマヌエル・カント 著『カント・宇宙論』（恒星社厚生閣、1954年）

荒木俊馬の生涯は、激動の時代において、天文学者、教育者、そして思想家として多岐にわたる活動を展開し、日本の学術と社会に大きな足跡を残しました。

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