東インド共産党

東インド共産党の成立と変遷

東インド共産党（Indische Communistische Partij）は、現在のインドネシアにあたるオランダ領東インドにおいて、1920年に結成された共産主義政党です。この党は、アジアで最も早く合法的に結成された共産主義政党の一つとして、その歴史的意義を持っています。しかし、その誕生と発展の過程は、複雑な政治状況と社会変動の中で展開されました。

東インド社会民主主義同盟の結成

東インド共産党の前身となる組織は、1914年に設立された東インド社会民主主義同盟（Indische Sociaal-Democratische Vereniging、ISDV）です。この同盟は、オランダ人社会主義者ヘンドリクス・スネーフリートとアドルフ・バールスらによって設立されました。彼らは、オランダ本国から社会主義思想を東インドに持ち込み、現地の活動家を育成する役割を果たしました。

特にスネーフリートは、スマウンやダルソノといった後の共産党指導者となる「原住民」活動家を育て、その後のインドネシア共産主義運動に大きな影響を与えました。ISDVの設立当初は、欧米人や欧亜混血児が中心でしたが、スネーフリートの尽力により、次第に「原住民」の参加者が増加しました。

ISDVは機関紙『自由の声 Het Vrije Woord』を発行し、社会主義思想の普及に努めました。また、当時の東インドで最大の組織であったサレカット・イスラームに党員を潜入させ、組織内部から勢力を拡大していく戦略を取りました。この結果、ISDVはサレカット・イスラームの一部を侵食しながら、その影響力を増大させていきました。

1917年のロシア革命は、ISDVに大きな影響を与え、党内は活気づきました。しかし、この動きを警戒したオランダ領東インド政府は、社会主義運動への弾圧を強化し、1918年末にはスネーフリートを国外追放、バールスも自主的に東インドを離れることになりました。

東インド共産党への改名

ISDV内部で「原住民」党員の数が増加するにつれ、組織内での発言力は、オランダ人や欧亜混血児から「原住民」へと移っていきました。1920年5月の第7回大会で、ISDVは党名をインドネシア語の「東インド共産主義同盟 Perserikatan Kommunist di India」に変更しました。

さらに同年12月には、コミンテルンへの加盟を決議し、党名を「東インド共産党 Indische Communistische Partij」と改称しました。この時期、東インドでは労働運動やストライキが頻発しており、東インド共産党も労働組合を中心に活動を展開しました。

しかし、労働運動内でのサレカット・イスラームとの勢力争いが激化し、1921年10月にはサレカット・イスラームが共産党員を除籍する決定を下しました。この結果、労働運動は大きく二派に分裂し、反植民地主義運動も分裂することになりました。

東インド政府は、1923年5月にスマウンを逮捕し、国外追放するなど、共産党幹部を次々と追放しました。これにより、東インド共産党は有力な党幹部を失い、組織は大きな打撃を受けました。しかし、党は活動を継続し、1924年6月にバタヴィア（現在のジャカルタ）で開かれた第二回党大会で、党名を「インドネシア共産党 Partai Komunis Indonesia（略称PKI）」と改めることになりました。

この改名をもって、東インド共産党の歴史は幕を閉じ、新たなインドネシア共産党が誕生しました。このインドネシア共産党は、その後のインドネシア現代史において重要な役割を果たすことになります。

まとめ

東インド共産党は、オランダ領東インドにおける共産主義運動の先駆けであり、インドネシア共産党の基礎を築いた重要な存在でした。その誕生から改名に至る過程は、植民地支配下における民族運動の複雑さを物語っています。また、労働運動や社会主義思想の普及において、重要な役割を果たしたことは、歴史的にも特筆すべき点と言えるでしょう。

（この記述は、増田与『インドネシア現代史』、永積昭『インドネシア民族意識の形成』、Blumberger, J. Th. Petrus, De Communistische Beweging Nederlandsch-Indie、McVey,Ruth T., The Rise of Indonesian Communismなどの文献に基づいています。）

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