東亜大学 (開校しなかった大学)

東亜大学（とうあだいがく）は、日本において20世紀初頭、プロテスタント諸教派が連携して設立を構想したものの、最終的には開学に至らなかった計画段階で終わった幻のミッション系大学です。

その設立構想は、1910年にスコットランドのエディンバラで開催された世界宣教会議が大きな契機となりました。この会議の精神を受け、日本のプロテスタント諸教派の間で、教派の垣根を越えた協力による高等教育機関、すなわち連合大学を設立しようという機運が高まります。この連合大学計画の中心的な推進役を担ったのは、明治学院、東京学院、そして聖学院でした。

構想の初期段階では、同志社も議論に参加していましたが、後に協議から離脱します。また、立教学院は連合大学への協力自体は検討する姿勢を見せつつも、自校の自治独立性を維持することを条件としました。青山学院については、連合大学設立に伴って既存の高等教育課程を廃止する必要があるという点に難色を示していましたが、同校の有力な後援者であったジョン・F・ガウチャーが連合大学設立の強力な推進者であったため、複雑な立場に置かれていました。

連合大学設立に向けた具体的な動きとして、まず1913年からは、計画の中核をなす明治学院高等学部と東京学院が合同での授業を開始しました。この合同授業は将来的な両校の合併を見据えたものであり、合併後の新大学名として「大正学院」とする案も検討されていました。さらに計画が進展し、1915年には大学設立のための常任委員会が設置されます。この委員会には、井深梶之助、A. K. ライシャワー、高木壬太郎、新渡戸稲造、佐藤昌介といった、当時の日本の教育界やキリスト教界を代表する prominent な人物たちが名を連ねました。そして、同年7月1日には、ジョン・F・ガウチャーも列席した重要な委員会会議において、構想中の連合大学を「東亜大学」として正式に開学することが決議されたのです。

このように、一時は具体的な校名まで決定され、設立に向けて着実に歩みを進めているかに見えた東亜大学計画でしたが、やがて暗礁に乗り上げ、ついには開学に至りませんでした。その背景には、いくつかの要因がありました。まず、計画に参加または検討していた各教派や学校が、それぞれの既設校を独自に発展させていこうとする動きが強まったことが挙げられます。会衆派は同志社大学の、聖公会は立教大学のさらなる発展を目指し、また関西学院も独自の高等教育計画を進めていました。

さらに決定的な要因となったのが、1918年に公布された大学令でした。この大学令によって、従来の専門学校とは異なる単独での「大学」設立の基準が示され、多くの学校にとって独自に大学を開設する道が開かれました。これにより、青山学院を含む各校が共同ではなく、それぞれ単独で大学を設立することを決定したため、教派や学校を超えた共同での大学設立という連合構想の根幹が揺らぎ、東亜大学計画は事実上解体へと向かいました。

結果として、東亜大学は計画上の名称としてのみ存在し、現実の教育機関として誕生することはありませんでした。先に始まった明治学院高等学部と東京学院による合同授業も、連合大学計画の終焉とともに、1917年3月をもって終了を迎え、幻の東亜大学構想はその歴史に幕を下ろしました。この計画は、当時の日本のミッションスクールが直面していた高等教育のあり方や、教派間の連携の難しさを示す事例と言えるでしょう。

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