東京マラソン2023

2023年3月5日、東京都心の公認コースを舞台に、第16回東京マラソンが開催されました。この大会は、国内最高峰のレースとしてだけでなく、ジャパンマラソンチャンピオンシップシリーズやマラソングランドチャンピオンシップ（MGC）チャレンジ、そしてブダペスト世界陸上、杭州アジア競技大会のマラソン日本代表選考競技会という重要な位置づけを持ち、さらにアボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズの一環としても注目を集めました。

午前9時10分に号砲が鳴り響き、男女同時にレースがスタートしました。ペースメーカーは、日本記録更新を強く意識した高速設定で、男子は1kmあたり2分57秒、女子は1kmあたり3分17秒というハイペースで選手たちを牽引しました。

男子レース

男子のレースは、序盤から有力選手たちが集団を形成しました。30km地点では、日本選手6人を含む19人の大規模な先頭集団がレースをリードしました。ペースメーカーが任務を終えて集団から離れた後も、大きな動きはなく、井上大仁選手（三菱重工）が積極的に集団を牽引する場面が見られました。その後、32kmからは同じく三菱重工の山下一貴選手が前を引っぱり、集団のペースを維持しました。35kmを通過する頃には、先頭集団は12人に絞られ、その中には日本選手4人が含まれていました。

レースが決定的に動いたのは37.2km地点でした。ケニアのタイタス・キプルト選手が仕掛け、一気にペースがアップすると、それまで集団に残っていた海外の強豪選手6人が抜け出し、優勝争いは彼らに絞られました。フィニッシュまで残り1kmを切ってからは、激しいスパート合戦が繰り広げられ、最後の直線である行幸通りでのせめぎ合いを制したのは、エチオピアのデソ・ゲルミサ選手でした。ゲルミサ選手は2時間05分22秒で優勝を飾り、2位には同タイムでモハメド・エサ選手、3位にはわずか3秒差でツェガエ・ゲタウェウケベテ選手が入り、エチオピア勢が表彰台を独占する結果となりました。

日本人選手によるトップ争いは、40km地点で山下選手と大迫傑選手（Nike/GMOアスリーツ）が競り合い、其田健也選手（JR東日本）が約7秒差で追う展開でした。しかし、フィニッシュまで残り約2kmの地点で、大迫選手が右脇腹付近を気にする仕草を見せ、惜しくもペースダウンしてしまいました。そこから抜け出した山下選手が、2時間05分51秒の好記録で日本人最上位となる7位でフィニッシュ。これは日本歴代3位に相当する素晴らしい記録でした。日本人2番手争いは、残り1kmを切ったところで其田選手が大迫選手をかわし、2時間05分59秒の日本歴代4位の記録で8位に入りました。大迫選手は2時間06分13秒で9位となり、井上選手が日本人選手の中で4番目にフィニッシュしました。

このレースの結果、大迫選手と小山直城選手（Honda）がMGC出場権を獲得しました。さらに、二岡康平選手（中電工）、高田康暉選手（住友電工）、富安央選手（愛三工業）がワイルドカードによるMGC出場権を手に入れました。また、東京五輪以来のマラソンとなった中村匠吾選手（富士通）は、序盤から先頭集団にはつかず独自のレース展開を図りましたが、2時間12分10秒で36位という結果に終わりました。箱根駅伝などで活躍した駒澤大学の山野力選手や創価大学の嶋津雄大選手ら学生ランナー4選手も初マラソンに挑みましたが、それぞれ2時間16分台で50位台となり、初めてのフルマラソンでタフな洗礼を受ける形となりました。

女子レース

女子のレースも高速で展開されました。最初の5kmを16分19秒、10kmを32分34秒で通過するなど、事前のペース設定を上回る速い流れとなりました。日本選手では、松田瑞生選手（ダイハツ）と一山麻緒選手（資生堂）が先頭集団に食らいつきましたが、一山選手は10km手前で、松田選手も10km過ぎには集団から離れてしまいました。

海外勢による先頭争いは、ペースメーカーが外れた30km地点でケニアのローズマリー・ワンジル選手が一気にスパート。35kmまで唯一人食らいついていたエチオピアのツェハイ・ゲメチュ選手をも突き放し、独走状態となりました。ワンジル選手はそのままフィニッシュまで駆け抜け、2時間16分28秒の記録で見事優勝を飾りました。これは世界歴代6位にランクインする驚異的な記録です。2位にはゲメチュ選手が2時間16分56秒（世界歴代8位）、3位には同じくエチオピアのアシェテ・ベケレ選手が入り、女子も海外勢が上位を占める結果となりました。

日本人選手の最高位は、松田瑞生選手が獲得しました。松田選手は20km地点までは日本記録を狙えるペースを刻んでいましたが、その後は失速し、2時間21分44秒で全体6位となりました。日本人2番手には、細田あい選手（エディオン）が2時間22分08秒で続きました。一山麻緒選手は2時間31分52秒で14位に終わっています。なお、女子の部からは、この大会でのMGC出場権獲得者は現れませんでした。

国内外のトップランナーたちが、日本記録やMGC出場権、世界への切符をかけて繰り広げた東京マラソン2023は、多くのドラマを生み、観衆を魅了する一日となりました。

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