東京都制

東京都制：戦時下における帝都東京の新たな行政体制

1943年（昭和18年）7月1日、太平洋戦争下の日本において、東京都制（昭和18年法律第89号）が施行されました。この法律は、それまで存在した東京府と東京市を廃止し、新たに東京都を設置することを定めたものです。現在の東京都の礎を築いた重要な法律であり、その成立背景、目的、内容、そして戦後の変遷を理解することは、現代の東京都の姿を知る上で不可欠です。

東京都制の目的と背景

東京都制の制定は、単なる行政区域の再編というだけでなく、大日本帝国の首都である東京の行政体制を根本から刷新しようとする、強い政治的意図に基づいていました。法律の目的は、以下の3点に集約されます。

1. 帝都東京にふさわしい国家的性格を備えた行政体制の確立: それまでの府市併存体制では、行政の効率性や一貫性に欠けるとの認識がありました。
2. 府市併存による弊害の解消と、行政の一元化・強力化: 東京府と東京市の二重行政による混乱を解消し、行政の効率性を高めることを目指しました。
3. 帝都行政の根本的刷新と高度な効率化: 戦時体制下において、迅速かつ効率的な行政運営が求められていたことが背景にあります。

東京都制によって、東京府と東京市は廃止され、その権限と機能は新たに設立された東京都へと継承されました。これにより、東京の行政は、東京都知事（当時、官選の東京都長官）を中心とした一元的な体制へと移行しました。

東京都の行政機構

東京都の長として、官選の東京都長官が置かれ、議決機関として東京都議会と東京都参事会が設置されました。東京都長官以下、行政機構の官制は、天皇の官制大権に属するため、東京都制ではなく、勅令である東京都官制（昭和18年勅令第503号）によって定められていました。

旧東京市の35区は、東京都の直轄となりました。区長は、従来は東京市が選任していましたが、東京都制下では東京都長官が官吏である書記官から選任する体制へと変更されました。区は法人格を保持していましたが、東京都の監督が強化されました。多摩地域や島嶼部（伊豆諸島と小笠原諸島）の市町村についても、同様に東京都の監督が強化されました。

東京都制構想の歴史

東京都制構想自体は、明治時代から存在していました。1896年（明治19年）には、「東京都制案」と「武蔵県設置法案」が提出されましたが、帝国議会や東京市民の反発を受け撤回されています。

東京都制の構成

東京都制は、総則、都議会、都参事会、東京都の官吏及び吏員、給料及び給与、東京都の財務、東京都の監督、区市町村、雑則、附則の9章と附則から構成されていました。各章には、東京都の行政運営に関する詳細な規定が盛り込まれていました。

戦後の改正と廃止

戦後、1946年（昭和21年）9月、東京都制は改正され、区長公選制が導入されました。しかし、1952年から1975年までは、地方自治法改正によって、特別区の独立性が制限され、都への従属が強化されました。同時に、東京都長官にも公選制が導入されました。

1947年（昭和22年）3月には区の整理・統合が行われ、35区から22区に減少しました。同年5月3日、地方自治法の施行に伴い、東京都制は廃止されました。ただし、東京都制の一部規定は、地方自治法の附則によって引き続き有効とされました。

地方自治法施行後

現在の東京都は、地方自治法に基づいて運営されています。東京都の名称は、地方自治法第3条第1項の規定に基づくものであり、特別区の存在を除けば、他の道府県と法的違いはありません。東京都制下との大きな違いは、東京都知事と特別区の区長・区議会議員が公選制になったことです。

まとめ

東京都制は、戦時体制下の特別な状況下で制定された法律でしたが、戦後の日本の地方自治制度にも大きな影響を与えました。この法律の成立背景、内容、そして戦後の変遷を理解することは、現代の東京都の姿を理解する上で非常に重要です。東京都の行政体制や制度の変遷をたどることで、日本の政治史、そして地方自治史の一端を垣間見ることができます。

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