東叡大王

東叡大王とは

東叡大王（とうえいだいおう）とは、江戸時代に上野の寛永寺の門主を務めた皇族に対する敬称の一つです。これは、漢文の教養を持つ人々の間で、寛永寺に住む親王を指して漢文風に用いられた呼び名で、「東叡山寛永寺にいらっしゃる親王殿下」という意味を持ちます。

概要

江戸時代、寛永寺の門主は、日光の輪王寺の門主を兼務し、さらに比叡山の延暦寺の天台座主にも就任することがありました。このため、寛永寺、輪王寺、延暦寺の三つの寺院を管轄する宮家として「三山管領宮」とも称されました。この地位には、皇族や皇子などが就任していました。

この背景には、江戸幕府の戦略があったと考えられています。もし、敵対勢力が京都の天皇を擁して倒幕運動を起こした場合、徳川幕府は朝敵とされる可能性があります。そのため、幕府は関東にもう一つの皇統を置いておくことで、朝廷と幕府の対立を、単なる朝廷内部の争いとして位置づけようとしました。実際、幕末には最後の輪王寺宮である公現法親王が、上野戦争後に東北へ脱出し、奥羽越列藩同盟の盟主として「東武皇帝」として擁立されたという説もあります。

東叡大王は、「三山管領宮」「日光宮」「上野宮」など、様々な呼び名で呼ばれました。朝廷や公家からは「輪王寺宮様」、江戸幕府や武士からは「日光御門主様」、江戸の庶民からは「上野宮様」と呼ばれていました。漢文の中では、この門主を「東叡大王」と呼んでいました。

寛永寺の門主は13代にわたりましたが、第7代のみ、上野宮（寛永寺の門主）と日光宮（輪王寺の門主）が別人でした。しかし、第7代日光宮は第5代の再任だったため、合計人数は14人にはなりません。門主の出身は、閑院宮から3人、伏見宮から2人、有栖川宮から3人で、残りはすべて皇子でした。

寛永寺の門主は、主に上野の寛永寺に住んでいましたが、年に3ヶ月ほど日光に滞在していました。また、それ以外の期間には関西方面に滞在する人物もいました。

歴代の門主の中には、天台座主に就任しなかった人もいました。13代のうち4人は早世や在任期間が短かったため、天台座主を兼任していません。最後の公現入道親王も、戊辰戦争の勃発により在任期間が短く、天台座主には就任できませんでした。寛永寺の門主と輪王寺の門主は同時に就任・退任しましたが、天台座主は他の僧侶も任じられたため、門主が天台座主ではない時期もありました。

天台座主についての誤解

輪王寺宮が在任中に天台座主を兼ねない時期があるのは、形式上のことであり、実質的な権威は三山管領宮のものが一貫していました。つまり、江戸時代において天台宗を管領したのは寛永寺であり、比叡山延暦寺ではありませんでした。したがって、ここでいう「天台座主」とは、正確には比叡山延暦寺という一寺の座主のことです。明治以降、天台宗のトップの座は比叡山に戻ったため、江戸時代以前と以後を通して「天台座主」と称しますが、江戸時代の実際とは異なります。

天台座主は在任期間が短く、交代も頻繁でした。輪王寺宮以外の僧も多く天台座主に任命されました。輪王寺宮以外の天台座主は比叡山の一山の座主にすぎません。第2代、第7代（上野宮）、第11代、第13代の4人の輪王寺宮は、それぞれの理由で公式には比叡山延暦寺の座主にはなっていませんが、延暦寺ではなく寛永寺のトップとして天台宗を管領しました。少々複雑ですが、慣例により江戸時代の比叡山延暦寺の座主のことも天台座主と呼んでいます。

歴代の東叡大王

1. 初代（寛永寺門主第3世）：守澄法親王（1654年-1680年）
2. 2代（寛永寺門主第4世）：天真法親王（1680年-1690年）
3. 3代（寛永寺門主第5世）：公弁法親王（1690年-1715年）
4. 4代（寛永寺門主第6世）：公寛法親王（1715年-1738年）
5. 5代（寛永寺門主第7世）：公遵法親王（1738年-1752年）
6. 6代（寛永寺門主第8世）：公啓法親王（1752年-1772年）
7. 7代（寛永寺門主第9世）：公遵法親王（1772年-1780年）※5代と同一人物、再任
8. 8代（寛永寺門主第10世）：公延法親王（1780年-1791年）
9. 9代（寛永寺門主第11世）：公澄法親王（1791年-1809年）
10. 10代（寛永寺門主第12世）：舜仁法親王（1809年-1843年）
11. 11代（寛永寺門主第13世）：公紹法親王（1843年-1846年）
12. 12代（寛永寺門主第14世）：慈性法親王（1846年-1867年）
13. 13代（寛永寺門主第15世）：公現法親王（1867年-1868年）

関連項目

• - 寛永寺
• - 天台座主
• - 門跡

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