東方文化学院

東方文化学院：日本の東洋学研究の先駆け

東方文化学院は、昭和時代戦前期の日本に存在した、東洋学・アジア学の研究機関です。外務省の管轄のもと、1929年に東京と京都に研究所が設立され、中国学研究の一大拠点として、多くの研究者を育成しました。しかし、時代と社会の要請に応じた研究方針を巡り、東京と京都の研究所の間で意見の相違が生じ、1938年に分離独立という道を選びます。第二次世界大戦後、両研究所は姿を消しましたが、その研究成果と人材は、現在の研究機関に受け継がれています。

設立の背景と発足

学院設立の背景には、義和団の乱後の中国における抗日運動の高まりがありました。日本政府は、文化事業を通じて日中関係の改善を図り、義和団賠償金を基金とした「対支文化事業特別会計」を設けました。この事業の一環として、当初は北京と上海に研究機関が設立されましたが、済南事件をきっかけに、日本国内に独自の研究所を設立する構想が浮上します。

外務省の岡部長景は、服部宇之吉と狩野直喜に協力を要請。両名は33名の発起人を集め、東京と京都で発起人会を開催しました。その結果、1929年4月に東方文化学院が正式に発足。服部が理事長兼東京研究所長、狩野が京都研究所長に就任し、それぞれ東京帝国大学と京都帝国大学の関係者が運営を担当しました。

東西研究所の特色

東京研究所では、著名な学者が研究員を兼任し、若手研究者は助手として採用されました。一方、京都研究所では、評議員が研究指導員となり、中堅・若手研究者が専任研究員として採用され、研究者育成に重点が置かれました。研究資料の整備にも力が入れられ、東京研究所は徐則恂の東海蔵書楼蔵書、京都研究所は陶湘の蔵書を一括購入し、研究基盤を確立しました。

分離独立と終焉

1937年、日中戦争が勃発すると、政府は学院に対し、時局に即した現状分析研究を求めるようになります。東京研究所は政府の要請を受け入れましたが、古典研究を重視する京都研究所はこれを拒否。その結果、1938年に両研究所は分離独立し、東京は（新）東方文化学院、京都は東方文化研究所として、それぞれの道を歩むことになりました。

戦後、東京の東方文化学院は東京大学東洋文化研究所に吸収され、京都の東方文化研究所は京都大学人文科学研究所に統合されました。これにより、東方文化学院は組織としては消滅しましたが、その精神と研究は、現在も両研究所に受け継がれています。

遺産とその現状

学院の主な事業は、東洋文化に関する文献史料の収集と学術研究の報告でした。研究成果は報告書として刊行され、1931年には紀要誌『東方学報』が創刊されました。また、中国の古典籍を復刻刊行する古書複製事業も行われました。

東京研究所の施設は、唐招提寺を模した建物で、東京大学東洋文化研究所に引き継がれましたが、後に拓殖大学に売却され、現在は拓殖大学国際教育会館として利用されています。一方、京都研究所の施設は、スパニッシュ様式の建物で、京都大学人文科学研究所によって使用され続け、現在は東アジア人文情報学研究センターが使用しています。この建物は、国の登録有形文化財に登録されています。

東方文化学院は、短命な研究機関でしたが、日本の東洋学研究に大きな足跡を残しました。その研究成果と人材は、現在の研究機関に受け継がれ、東洋学研究の発展に貢献しています。

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