東映アニメーション研究所

東映アニメーション研究所：アニメ界の即戦力を育成した機関

東映アニメーション研究所は、1995年から2011年まで東映アニメーション株式会社が設置していた人材育成機関です。単なる学校法人ではなく、アニメ制作現場が求める人材を、業界最大手の制作会社が自ら育成することを目指した、他に類を見ない存在でした。

設立の背景

その原点は、東映動画（現：東映アニメーション）内に存在した勉強会・養成所に遡ります。日本初のカラー長編アニメーション映画『白蛇伝』制作時、アニメーション制作を専門的に学べる教育機関が存在しなかったため、広く人材を募集し、OJT（On-the-Job Training）を通じて育成を行っていました。

1990年代に入ると、マルチメディアやCG技術が急速に普及し、ディズニーがフル3Dアニメーション映画『トイ・ストーリー』を制作するなど、アニメ制作技術は大きな変革期を迎えます。また、環境問題や経済的な理由から、セル画の製造中止が決定されるなど、従来の制作手法からの転換が迫られていました。

さらに、1970～80年代のアニメ制作を支えたベテラン世代が一斉に定年を迎え始め、制作現場の年齢構成の偏りや、技術・ノウハウの継承が困難になるという危機感がありました。当時、既存のアニメ教育機関は、技術革新に対応できておらず、現場が求める即戦力とはかけ離れた教育内容だったのです。

このような状況に対し、当時の東映アニメーション社長であった泊懋氏は強い危機感を抱き、次世代の制作現場を担う人材を育成するため、1995年4月に東映アニメーション研究所を設立しました。

沿革と教育内容

研究所では、アニメーション研究科、デジタル映像研究科、特撮映像研究科、声優研究科など、多様な学科を設置し、時代のニーズに対応した専門的な教育を行いました。特にデジタル映像研究科では、Lightwave3DやMayaといった当時最先端の3DCGソフト、RETAS! Pro を使ったデジタル彩色、Avidを使ったノンリニア編集など、業界の動向をいち早く取り入れたカリキュラムが特徴でした。

講師には、現役のクリエイターを迎え、少人数制による実践的な制作実習が行われました。研究生の中には、技能五輪でメダルを受賞する者も現れ、その教育水準の高さが伺えます。また、制作された作品は、東京国際アニメフェアや練馬アニメーションフェスティバルなどのイベントで高く評価されました。

研究所は、その教育内容を広く公開するため、年に一度「オープンスクール」を開催し、地域住民や学生などを対象に施設を解放していました。また、海外からの注目も高く、アメリカ、フランス、中国、韓国、フィリピン、タイなど、様々な国の教育機関が視察に訪れるなど、国際的な人材育成機関としての地位を確立していました。

閉所とその後

しかし、2000年代に入り、日本のアニメコンテンツ産業への注目が高まり、多くのアニメ教育機関が設立される中で、東映アニメーション研究所は、2011年3月をもって閉所しました。16年間で1000人を超える卒業生を輩出し、アニメ業界に多大な貢献を果たしました。

駿河台ビルのフロア構成

研究所は、東京都千代田区神田駿河台の駿河台ビルに設置され、各フロアには最新鋭の設備が備えられていました。

2階（デジタル映像研究科）: 各アイランドにはペンティアムCPU 90MHz搭載のPCが8台設置され、レンダリング専用機やカラープリンター、スキャナーなどが完備されていました。
3階・5階（アニメーション研究科教室）: 作画用ライトボックスやクイックアクションレコーダー（QAR）、S-VHSビデオデッキなどが設置されていました。
4階（大教室）: 映像音声スイッチャ設備やワイヤレスPAシステムなど、講義や上映会に必要な設備が整っていました。
地下1階（声優研究科）: アフレコ用マイクロフォンやヘッドフォン、VTR送出設備、ダンス用フロアなどが設置されていました。

著名な卒業生

多くの卒業生が、アニメ業界の第一線で活躍しています。

脚本家: 香村純子
アニメーター／演出家: 久保田誓、田中裕太、錦織敦史、西田達三、林祐己、宮本絵美子、渡辺敦子
* 声優: 菊池こころ

東映アニメーション研究所は、短期間でありながらも、日本のアニメ業界に大きな足跡を残した、重要な人材育成機関であったと言えるでしょう。

もう一度検索