東洋紡岩国硬式野球部

東洋紡岩国硬式野球部

はじめに

東洋紡岩国硬式野球部（とうようぼういわくにこうしきやきゅうぶ）は、日本の社会人野球界において、かつて山口県岩国市を拠点に活動していた企業チームです。紡績事業で知られる東洋紡績が運営母体となり、日本野球連盟に所属していました。1949年の創部から1976年の解散まで、約27年間にわたり活動を展開し、都市対抗野球大会への出場や、プロ野球選手を育成・輩出するなど、地域の野球振興に貢献しました。しかし、当時の経済状況の悪化により、チームの維持が困難となり、その歴史に終止符が打たれました。

チームの誕生と歩み

チームは1949年9月、東洋紡績の岩国工場内に産声を上げました。「東洋紡岩国硬式野球部」として正式に活動を開始し、山口県岩国市を本拠地として社会人野球リーグに参戦しました。設立当初から、企業チームとして選手の強化に力を入れ、全国の舞台を目指しました。

主要大会での記録

東洋紡岩国硬式野球部が最も目標とした大会の一つが、社会人野球の最高峰である都市対抗野球大会です。チームは通算6回、この栄誉ある大会への出場を果たしています。初めて本大会の土を踏んだのは1958年でしたが、残念ながら初戦で敗退しました。その後も出場を重ね、迎えた1972年、6回目の出場となったこの大会で、念願の本大会初勝利を挙げました。これはチームの歴史においても大きな節目となる出来事でした。

また、都市対抗野球以外の主要大会においても、チームは優秀な成績を残しています。JABA徳山（スポニチ）大会では、1972年と1974年の二度にわたり優勝を果たし、社会人野球における確かな実力を示しました。

球界に輩出した人材

東洋紡岩国硬式野球部は、プロ野球界へ複数の選手を送り出した実績も持っています。チームからプロの道へ進んだ主な選手には以下の方々がいます。

中本 富士雄（投手）：1958年に広島カープへ入団しました。
石原 碩夫（投手）：1961年に東映フライヤーズへ入団しました。
植田 征作（内野手）：1961年に西鉄ライオンズへ入団しました。
高月 敏文（内野手）：1975年のドラフト会議で6位指名を受け、広島東洋カープに入団しました。
* 渡辺 純志（内野手）：1976年のドラフト会議で5位指名を受け、阪神タイガースに入団しました。

また、投手であった鳥原公二選手は、チームの廃部に伴い日立製作所へ移籍した後、1977年のドラフト会議で5位指名を受けてヤクルトスワローズに入団しています。

さらに、かつて選手としてチームに在籍し、後に社会人野球界の発展に多大な貢献をした人物として、脇村春夫氏が挙げられます。同氏は2019年に日本の野球殿堂における特別表彰部門の顕彰者に選出されています。

チームの終焉

東洋紡岩国硬式野球部は、順調にチーム運営を続けているように見えましたが、当時の日本経済を取り巻く厳しい状況が、その存続に影を落としました。不況の波は企業スポーツの運営にも影響を与え、東洋紡績も例外ではありませんでした。チームの維持に要する費用負担が困難になったことを理由に、会社は硬式野球部の解散という苦渋の決断を下しました。そして1976年10月14日をもって、東洋紡岩国硬式野球部は約27年の歴史に静かに幕を下ろしました。

まとめ

短期間ながらも、東洋紡岩国硬式野球部は社会人野球の舞台で存在感を示し、特に都市対抗野球での奮闘や、多くの有望な選手をプロ野球界に送り出した功績は特筆されます。地域の野球ファンに夢と感動を与え、山口県の社会人野球史にその名を刻んだチームでした。経済状況の変化によって活動を停止せざるを得なかったことは残念ですが、その歴史は、関わった多くの人々の記憶と、残された記録の中で語り継がれていくことでしょう。

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