東海遊侠伝

『東海遊侠伝』：清水次郎長を語る最初の物語

『東海遊侠伝』（とうかいゆうきょうでん）は、明治時代に山本鉄眉（後の天田愚庵）によって著された、清水次郎長の伝記です。この作品は、次郎長を主人公とした物語としては最初期のものとされ、後の講談や浪曲といった大衆文化に大きな影響を与えました。

成立の背景

著者の山本鉄眉、後の天田愚庵は、山岡鉄舟の紹介で次郎長の養子となりました。次郎長が収監された際、その嘆願書として1884年（明治17年）に出版されたのが本書です。そのため、内容は次郎長の功績を称賛するものであり、一種の擁護的な性格を持っていました。

内容の特徴

次郎長の生前に出版された本書は、天田愚庵が本人に直接取材した聞き書きを基にしています。そのため、講談や浪曲で語られる次郎長像とは異なる点も存在します。

例えば、「清水二十八人衆」に数えられる「追分三五郎」は、講釈師の神田伯山が創作した架空の人物であり、『東海遊侠伝』には登場しません。また、実在の人物である法印大五郎の最期についても、史実とは異なる記述が見られます。

これらの相違点について、今川徳三は、天田が取材した時点で事件から時間が経過しており、次郎長自身も直接見聞したわけではないためとしています。

後世への影響

『東海遊侠伝』は、講談師の神田伯山に影響を与え、彼の代表作である『名も高き富士の山本』の創作の元となりました。さらに、伯山の弟子である浪曲師の二代目広沢虎造が『清水次郎長伝』を完成させ、次郎長の名を不動のものとしました。

また、映画シリーズ『次郎長三国志』も、講談・浪曲をベースとしており、『東海遊侠伝』の影響を受けていると言えるでしょう。

書誌情報

『東海遊侠伝 一名次郎長物語』、山本鉄眉、与論社、1884年4月発行
『東海遊侠伝』 : 『愚庵遺稿』所収、天田鉄眼、文求堂、1904年8月発行
『鐵眼天田愚庵禪師原著 次郞長物語(一名東海遊俠傳)』柳樽寺劍花坊 : 『日本及日本人』1月1日號・通巻第115号所収、政教社、1927年1月発行
『東海遊俠傳』 : 『愚庵全集』所収、天田愚庵、政教社、1928年発行
『東海遊俠傳』 : 『愚庵全集』所収、天田愚庵、政教社出版部、1934年発行
『次郎長 東海遊侠伝意訳』、山本鉄眉、意訳野沢広行、戸田書店、1961年発行
『東海遊侠伝 一名次郎長物語』、山本鉄眉、いわき民報社、1977年発行（復刻版）
『次郎長物語 東海遊侠伝』、愚庵禅師、評釈井上剣花坊、柳内守一、1994年9月発行
『東海遊侠伝』天田愚安 : 『福島県文学全集 第2期　随筆・紀行・詩編 第1巻』、監修木村幸雄、郷土出版社、2002年11月発行
『東海遊侠伝』、天田愚庵、人間文化研究機構国文学研究資料館、2007年3月発行（復刻版）

まとめ

臼井隆一郎が述べているように、『東海遊侠伝』は、清水次郎長が国民的ヒーローとなる上で不可欠な存在でした。この作品は、次郎長の人物像を形作り、後の大衆文化に多大な影響を与えた、重要な文献と言えるでしょう。

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