松 (松型駆逐艦)

駆逐艦『松』：建造から悲劇の最期まで

1944年4月、舞鶴海軍工廠で建造された日本海軍の駆逐艦『松』は、松型駆逐艦の1番艦として竣工しました。起工から竣工までわずか8カ月という短期間での建造は、当時、帝国海軍が置かれていた逼迫した状況を如実に物語っています。

竣工までの道のり

『松』は、丁型駆逐艦の5481号艦として1943年8月8日に起工。同年12月22日には命名され、同時に艦艇類別等級に「駆逐艦一等」として松型が新設、その1番艦と定められました。翌1944年2月3日には進水、本籍を舞鶴鎮守府に定め、3月4日には舞鶴海軍工廠に松艤装員事務所が開設されました。竣工が迫る中、3月25日には同型艦の4番艦『桃』が進水するなど、活気ある造船所の様子がうかがえます。同日、米井垣雄少佐が松艤装員長に任命され、4月27日には初代駆逐艦長に就任。そして4月28日、『松』は竣工を迎えました。竣工と同時に、松艤装員事務所は撤去され、訓練部隊である第十一水雷戦隊に編入され、本格的な訓練が開始されました。

サイパン島増援作戦への参加

6月2日には艦長が米井少佐から吉永源少佐に交代。6月15日、アメリカ軍がサイパン島に上陸を開始すると、日本軍はサイパン島への増援作戦「イ号作戦」を発動させました。これに参加するため、『松』は瀬戸内海での訓練後、横須賀に回航。横須賀海軍工廠で機銃を増設、上陸作業用の資材を搭載するなど、作戦準備に追われました。しかし、第一航空艦隊と第一機動艦隊がマリアナ沖海戦で惨敗したことで、サイパン島増援作戦は成功の見込みがなくなり、6月25日に正式に中止となりました。

硫黄島方面への転用と輸送任務

サイパン島増援作戦の中止を受け、増援部隊は小笠原諸島や硫黄島に転用されることになります。『松』も十一水雷戦隊所属として、これらの島々への輸送任務に従事しました。この作戦は「伊号作戦」と呼ばれ、第十一水雷戦隊司令官が指揮をとりました。輸送任務中、『松』は航行不能に陥った輸送艦の曳航、護衛などにも従事し、その任務の重要性が伺えます。7月15日には、第四十三駆逐隊が『松』、『竹』、『梅』、『桃』によって編成されました。

運命の日：スカベンジャー作戦

7月29日、『松』は第二護衛船団司令部旗艦として、輸送船団を護衛し、硫黄島へ向けて出港しました。この船団は、硫黄島の戦いに備え、戦力を増強するための重要な輸送作戦でした。しかし、8月4日午前10時30分頃、父島北西20海里の地点で、米軍機動部隊によるスカベンジャー作戦の攻撃を受けました。米軍の艦載機は二度に渡り襲来し、『松』は激しい戦闘を行い、5機の敵機を撃墜したと報じましたが、結局、船団は壊滅的な被害を受けました。

生存艦は『松』、『第4号海防艦』、輸送船「利根川丸」のみとなり、『松』は米軍の巡洋艦、駆逐艦部隊と単艦で勇敢に交戦しました。しかし、圧倒的な戦力差の前に、『松』は沈没、乗組員全員が戦死しました。第二護衛船団司令官、高橋少将もまた、この海戦で命を落としました。

『松』はわずか3カ月という短い艦歴でしたが、激動の太平洋戦争において、その短い生涯を祖国のために捧げました。その勇猛果敢な戦いぶりは、今も語り継がれています。

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