松井正夫

松井 正夫は、1898年（明治31年）10月10日に生まれ、1956年（昭和31年）11月17日に惜しまれつつこの世を去った日本の化学者であり、教育行政官でもありました。専門は有機化学で、位階は正三位を授けられています。

現在の新潟市中央区にあたる新潟県新潟市で、判事であった松井郡治の長男として生を受けました。旧制新潟中学校を経て、旧制第二高等学校で学び、1922年（大正11年）3月には東京帝国大学理学部化学科を卒業しています。

大学を卒業した同年6月、山口高等学校の教授となりますが、11月から1924年（大正13年）3月にかけては陸軍への入隊に伴い職務を離れました。その後、1931年（昭和6年）12月から1933年（昭和8年）9月にかけては、化学の研究を深めるためドイツとアメリカに渡り、海外で研鑽を積んでいます。

太平洋戦争中の1943年（昭和18年）12月からは文部省に入り、教学官として専門教育局で勤務しました。戦後の混乱期、日本の高等教育改革が進む中で、1946年（昭和21年）5月には学校教育局専門教育課長、同年9月には大学教育課長に就任します。この文部省在任中の松井正夫の功績として特筆されるのが、大学基準協会の設立と大学基準の制定です。彼は従来の官僚的な慣習にとらわれることなく、果断な手腕を発揮し、この重要な事業を成し遂げました。これは戦後日本の大学教育の質を確保し、発展させる上で極めて大きな意味を持つ事業でした。

1947年（昭和22年）9月には故郷の新潟に戻り、旧制新潟高等学校の第9代、そして最後の校長に着任します。そして、1949年（昭和24年）5月に戦後の学制改革によって新潟大学が発足する際、松井正夫は第5代新潟医科大学学長であった橋本喬（のちに新潟大学初代学長）と共に、大学設立の中心的な役割を担いました。特に理学部の設置においては、開設準備委員長として多岐にわたる準備を指揮し、教員の選考にも携わっています。大学開学後は、理学部の初代学部長として、教育・研究環境の充実に惜しみない努力を注ぎました。さらに、1950年（昭和25年）4月には新潟大学一般教養部の初代部長も兼任し、幅広い分野での教育基盤整備に貢献しました。

教育者、研究者、そして行政官として多忙な日々を送る中、1956年（昭和31年）11月17日午前、新潟大学理学部の研究室で赤外線分光光度計の設置作業を行っていた最中に脳溢血で倒れ、午前11時20分に急逝しました。享年58歳でした。その早すぎる死は、学界及び教育界に大きな損失を与えました。

その功績に対し、没日である1956年11月17日付で、正三位と勲三等瑞宝章が追贈されています。

親族としては、父・郡治のほか、達夫、道夫、久夫という3人の弟がいました。特に三弟の久夫は醸造技術者として知られています。

著書としては、高等教科書として『高等敎科 無機化學』、『高等敎科 有機化學』、『高等敎科 化學總論』の共著があります。

松井正夫は、戦後の激動期における日本の高等教育改革、特に新しい大学制度の確立と発展に重要な足跡を残しました。文部省での政策立案から、故郷・新潟における大学設立と発展への尽力まで、その生涯は教育と学術の振興に捧げられたものでした。

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