松井達夫

松井 達夫

松井 達夫（まつい たつお）は、1904年9月29日に生まれ、1997年3月25日に逝去した、日本の都市計画分野における重要な人物です。土木技術官僚としてキャリアを開始し、後に都市計画の研究者、教育者として早稲田大学で教鞭を執りました。その生涯を通じて、日本の都市計画行政の発展、戦後復興、そして次世代の育成に多大な貢献をしました。

経歴

新潟県新潟市出身。新潟県立新潟中学校を経て、1928年に東京帝国大学工学部土木工学科を卒業しました。卒業後は東京市技手となります。その後、都市計画関連の官僚として、1935年には都市計画東京地方委員会技師、1937年には内務省大臣官房都市計画課技師を務めました。戦後、建設行政の中枢に関わるようになり、1948年に建設院都市局土木課長、1950年には建設省発足時の都市局（後の計画局）の土木課長や都市建設課長を歴任しました。1951年には復興課長として戦災復興計画の推進にあたります。1954年には首都建設委員会事務局長に就任し、首都圏整備計画の礎を築きました。1956年には科学技術庁科学審議官を務めた後、1957年からは早稲田大学の専任教授として、非常勤講師時代を含め約20年間にわたり都市計画の教育・研究に従事しました。1975年に同大学を退任した後も、日本の都市計画界への影響力は続きました。

早稲田大学在職中には、1968年に結成された学際的研究組織である社会科学研究所「21世紀の日本・早稲田大学グループ」の代表を務め、内閣主催のコンペティションに応募。その提言は政府総合賞を受賞するなど、学術界においても大きな足跡を残しました。

業績と活動

松井氏は、官僚として、また研究者・教育者として、日本の都市計画の多くの側面に深く関わりました。特に、戦災復興期の都市計画行政において中心的な役割を果たしました。また、早稲田大学での研究活動を通じて、多岐にわたる成果を発表しました。

都市計画行政や関連分野においては、日本都市計画学会会長、都市計画協会副会長といった主要な学会・団体の役職を務めました。さらに、首都圏整備委員会委員、都市計画中央審議会委員などを歴任し、国の都市計画策定に深く関与しました。地方自治体の都市計画に対しても積極的な指導や助言を行いました。

国内外の活動も精力的に行い、台湾や韓国といった近隣諸国の都市づくりに関する指導にも熱心でした。国際会議においても、1958年の国際地域計画セミナーでの議事進行、1976年の国際住宅都市計画連合国際会議での日本代表団長、日本生産性本部主催のアメリカ都市再開発調査団長などを務め、日本の都市計画の知見を国際的に発信しました。

その他にも、帯広市市計画立案委員会委員長（柏林台団地）、島根県庁周辺整備委員会委員、八王子土地利用計画研究委員会委員・幹事長、川崎市都市計画審議委員長、南多摩地方計画策定委員会委員、帝都高速度交通営団管理委員会委員、庵原地区総合開発調査委員会委員長、港北ニュータウン計画関連の日本都市計画学会検討委員会委員長、双葉原子力地区調査委員会委員長、原子力委員会地帯整備専門部会都市計画小委員会主査など、数多くの重要な委員会や組織で要職を歴任し、日本の社会資本整備や地域開発に貢献しました。

交通分野においても、交通基本問題調査会会長、万国博覧会会場計画委員会委員を務めるなど、その活動範囲は広範に及びました。

人物像

松井氏は、その公的な立場において、極めて厳格で清廉な雰囲気を持つ人物として知られていました。日本の官僚としての規範を示すような、崩れることのない姿勢は、多くの人々に強い印象を与えました。一方で、プライベートでは酒を好み、興に乗れば唄や落語を披露するなど洒脱な一面も持ち合わせており、囲碁にも非常に長けていたことで知られています。

研究や執筆活動においては、実務家、実践家としての経験に基づいた、空論に終わらない論を展開しました。また、座談の名手としても知られ、ユーモアを交えた魅力的な文章で多くの人々を惹きつけました。

主要著作

『新開発区画整理の研究』（単著、1960年）
『基礎土木工学講座11 都市計画』（共著、1963年、1964年、1980年）
* 「戦災復興計画回顧録」（『戦災復興外史』所収、1985年）

弁護士で参議院議員を務めた松井道夫氏は実弟にあたります。

松井達夫氏は、官界、学界、そして国内外の幅広い活動を通じて、日本の都市計画の発展に不可欠な役割を果たした人物です。1997年に胃癌のため逝去しました。

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