松倉渡船

松倉渡船（まつくらとせん）

松倉渡船は、かつて岐阜県各務原市を流れる木曽川において運航されていた渡し船です。現在の各務原市川島松倉町（旧羽島郡川島町松倉町）と、同じく各務原市の下中屋町（旧稲葉郡稲羽町下中屋）との間を結んでいました。

この渡し船は、地域の人々からは「松倉渡し」「中屋渡し」「牛子渡し」といった別名でも親しまれていました。特に「牛子の渡し」という呼び名は、江戸時代に松倉村の枝村であった牛子村に由来するとされています。現在も川島松倉町内には「西牛子」という字名があり、当時の地名が残っています。

松倉渡船は、単なる地域内の移動手段に留まらず、愛知県一宮市方面と岐阜県の那加駅方面を結ぶ重要な交通路の一部を構成していました。これは後の県道（現在の県道一宮各務原線）の一部に指定されており、一時期は岐阜県によって運営される公営の渡船でした。

歴史

松倉渡船の歴史は古く、その設置は安土桃山時代に遡ります。天正14年（1586年）に発生した木曽川の大洪水により、現在の木曽川の主要な流路が形成された後、天正17年（1589年）に当時の松倉城主であった坪内氏の命によって渡船が設置されたと伝えられています。当初、この渡し船は尾張国一宮と中山道を結ぶ「馬街道」と呼ばれる脇往還の重要な渡河点としての役割を担っていました。

江戸時代に入り、愛知県一宮市にある真清田神社の門前で享保12年（1727年）から定期市である「三八市」が始まったことにより、この渡船を利用する人々や物資が増加し、渡船の重要性はさらに高まりました。

明治時代に入ると、渡船の運営体制にも変化が見られます。明治42年（1909年）には、渡船の運営権が松倉側から下中屋側に譲渡されました。この頃の運賃は往復で7厘でしたが、その後、大正7年（1918年）頃には往復1銭5厘に改定されています。

大正12年（1923年）には、渡船が通る区間が「浅井那加停車場線」として県の道路に認定されたことで、松倉渡船は岐阜県営の渡船となり、公共交通としての性格を強めました。

廃止と現在

長年にわたり地域交通の要として機能してきた松倉渡船ですが、近代的な交通網の整備に伴いその役割を終えることとなります。昭和37年（1962年）、松倉渡船が運航されていた場所よりも下流に川島大橋が架けられたことにより、陸上交通での渡河が可能となりました。これに伴い、松倉渡船はその歴史に幕を下ろし、廃止されました。

現在、かつて松倉渡船が通っていた区間は、県道一宮各務原線の一部として指定されていますが、木曽川を渡る手段がないため、いまだに未開通区間となっています。

関連する遺構と民話

松倉側の渡船場跡周辺には、かつて渡船が利用されていたことを示すいくつかの遺構が残されています。渡船の歴史や場所を示す案内板が設置されているほか、江戸時代後期にあたる文政13年（1830年）に建てられたとされる常夜灯が堤防上に現存しています（現在の常夜灯は1990年代に復元されたものです）。また、渡船場付近にあったと伝えられる弘法堂も残されています。

地域には松倉渡船にまつわる民話も伝わっています。川島町に伝わる「牛子渡しとキツネ」という民話は、かつて渡船の船頭たちが語り継いできた話であると言われており、渡し船が人々の生活に深く根ざしていたことを物語っています。

松倉渡船は廃止されましたが、その歴史は関連する遺構や地域に伝わる話として、今もなお語り継がれています。

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