松島美紗

日本初の女性戦闘機パイロット：伊藤美紗

伊藤美紗（いとう みさ）氏は、1991年に神奈川県横浜市で生まれ、日本の航空自衛隊に所属する幹部自衛官です。旧姓は松島。彼女は、日本人女性として初めて戦闘機パイロットとなった人物として、航空自衛隊の歴史にその名を刻んでいます。

神奈川県立横須賀高等学校を卒業後、伊藤氏は人の役に立てる仕事に就きたいという強い思いから自衛隊への道を志しました。特に、映画『トップガン』に影響を受け、空への憧れを抱いていたことも、その選択を後押ししたと言われています。こうして防衛大学校に入校し、第58期生として勉学に励みました。

2014年（平成26年）に防衛大学校を卒業すると、航空自衛官として任官。当初、航空自衛隊では女性パイロットの配置に一定の制限がありました。1993年（平成5年）には輸送機や救難機といった機体のパイロットにおける女性の配置制限が撤廃されていましたが、戦闘機については状況が異なりました。戦闘機パイロットの任務は肉体的な負担が大きく、通常40代前半で第一線を退くことが一般的でした。また、女性がキャリアの中で経験する可能性のある妊娠や出産による任務からの離脱期間も考慮され、戦闘機パイロットのポストについては、引き続き女性の配置が制限されていたのです。

このような状況の中、伊藤氏（当時は松島）は、当初は輸送機や救難機の操縦課程に進むことを考えていました。しかし、日本社会で進む少子高齢化に伴い、将来的に戦闘機パイロットの不足が懸念されるようになったことから、航空自衛隊は方針を転換します。2015年（平成27年）11月、ついに戦闘機パイロットに対する女性の配置制限が撤廃されることになったのです。この歴史的な決定を受けて、松島氏は戦闘機操縦課程への挑戦を決意。多くの志願者の中から、女性としては初の戦闘機操縦課程訓練生の一人に選ばれました。

厳しい訓練を経て、2018年（平成30年）8月23日、宮崎県の新田原基地で行われた飛行教育航空隊第109期戦闘機操縦（F-15）課程の修了式に臨みました。この式典で、男性自衛官5名と共に修了証を受け取った松島氏は、ここに日本人女性として初めて戦闘機パイロットが誕生するという歴史的な瞬間を迎えました。

修了の翌日である8月24日付で、松島氏は同じ新田原基地に所在する第5航空団第305飛行隊に配属されました。戦闘機パイロットとしての最初の任務は、日本の領空を守るための「対領空侵犯措置」任務に必要な資格を取得することでした。半年から1年間に及ぶ集中的な訓練を経て、無事資格を取得し、その後は実際に領空侵犯の恐れがある航空機への対応などの実任務に就き、日本の防空任務の一翼を担うこととなります。

パイロットとしての経験を積む傍ら、伊藤氏は次のキャリアステップにも積極的に挑戦しています。2023年（令和5年）10月には、夫である伊藤陽童1尉と共に「指揮幕僚（CS）課程」の試験に合格したことが明らかになりました。指揮幕僚課程は、将来の幹部自衛官として部隊指揮や幕僚業務を担うために必要な知識・技能を習得する重要な課程であり、防衛大学校や一般大学出身の幹部自衛官にとって、キャリアアップの上で必須とされるステップの一つです。夫婦そろってこの難関を突破した伊藤夫妻は、2024年（令和6年）4月からは航空自衛隊幹部学校に入校し、さらなる研鑽を積む予定です。

伊藤美紗氏は、日本の安全保障における女性活躍の道を切り拓いたパイオニアであり、その不断の努力と実績は、多くの人々に感銘を与えています。今後も、自衛隊の幹部として、日本の空の守りに貢献していくことが期待されています。

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