松平近禎

松平近禎（まつだいら ちかよし）

江戸時代中期、豊後国府内藩（現在の大分県大分市付近）の第3代藩主を務めた松平近禎は、大給松平家親清流の第7代当主である。幕府の要職を歴任し、藩政においては領地の基盤強化に尽力した人物として知られる。その生涯は、父からの家督継承、幕府での公務、そして藩における具体的な施策によって彩られている。

生涯と経歴

松平近禎は、寛文12年（1672年）に、第2代府内藩主であった松平近陳の次男として生まれた。母は、徳川秀忠に仕えた阿部重次の娘である。嫡男ではなかったが、兄に代わって家督を継ぐこととなった。

宝永2年（1705年）11月11日、父・松平近陳が隠居したことにより、近禎は豊後府内藩の家督を相続し、第3代藩主となった。藩主就任後、彼は幕府においても重要な役職を歴任することになる。奏者番（そうじゃばん）や寺社奉行（じしゃぶぎょう）といった要職を兼務したのである。奏者番は、大名や旗本の江戸城における出仕・登城の際の取り次ぎや、将軍への献上品や書状の伝達などを担う役職であり、幕府と諸大名との間の重要なパイプ役であった。また、寺社奉行は、日本全国の寺院や神社の管理、訴訟、僧侶・神職の人事などを司る役職であり、その権限は非常に大きかった。これらの役職を兼務したことは、松平近禎が幕府からその能力や家格を認められ、一定の影響力を持っていたことを示唆している。

藩政における貢献

豊後国府内藩の藩主として、松平近禎は領地の安定と発展、そして住民の生活向上のためにいくつかの重要な施策を推進した。
特に力を入れたのは、経済基盤の強化と城下町の防災対策である。

経済面では、新川新港の築造に尽力した。当時の府内藩は、九州の東海岸に位置し、海運や商業が重要な経済活動であった。既存の府内港は規模が限られていたため、拡大する交易需要に対応するため、城下の東側、大分川河口付近に新たな港湾を整備する計画を進めた。新川新港の完成は、府内藩の商業・流通機能を強化し、領地の経済活性化に貢献したと考えられている。

また、城下町の安全確保も近禎の重要な課題であった。江戸時代の都市は木造建築が中心であり、火災が発生すると瞬く間に延焼し、甚大な被害をもたらすことが多かった。府内城下も例外ではなかったようで、度々火災に見舞われていた。近禎はこれに対応するため、防火対策として防水路の拡張工事を行った。これは、火災発生時に迅速な消火活動を可能にするため、あるいは延焼を防ぐための防火帯としての機能を強化するためのものであった。これらの防災施策は、城下住民の安全と安心を守る上で重要な意味を持っていた。

家督の継承

松平近禎には、正室である松平典信の娘との間に嫡男・虎之助が生まれた。しかし、残念ながら虎之助は若くしてこの世を去ってしまった。江戸時代の大名家にとって、家督の安定した継承は存続に関わる最重要事項であり、嫡男の早世は大きな問題であった。

近禎は家門の断絶を防ぎ、藩を次世代に引き継ぐため、婿養子を迎えることを決断した。彼は甥にあたる近貞を養子とし、自身の娘を正室として娶らせた。近貞は三河吉田藩主三宅康雄の三男であり、これによって松平家と有力な譜代大名である三宅家との関係も強化された。かくして、松平近禎の跡は、婿養子である松平近貞によって継承されることとなった。

系譜

松平近禎に関わる主な人物は以下の通りである。

父母
父：松平近陳（豊後府内藩第2代藩主、大給松平家親清流第6代当主）
母：阿部重次の娘（徳川秀忠に仕えた阿部重次の娘）
正室
松平典信の娘
子女
松平虎之助（嫡男、早世）
於吹（うえふき、またはおふき、植村家敬正室）
松平近貞正室（氏名不詳）
内藤頼卿正室（氏名不詳）
養子・養女
松平近貞（婿養子、三河吉田藩主三宅康雄の三男、後の豊後府内藩第4代藩主）
* 大岡忠宜正室（養女、松平近苗の娘）

まとめ

松平近禎は、江戸時代中期において、豊後国府内藩の藩主として、幕府の要職を兼務しながら、領地の経済基盤整備と防災対策といった具体的な施策を推進した。嫡男に先立たれるという困難に見舞われたが、適切な後継者を選定することで家門の安定を図った。彼の治世は府内藩の発展に貢献するものであったと言える。

もう一度検索