松方巌

松方巌：実業界と華族社会を繋いだ波瀾万丈の生涯

松方巌（まつかた いわお）は、1862年、薩摩藩士・松方正義の長男として誕生しました。父・松方正義は明治時代の日本の経済政策に大きな影響を与えた名宰相として知られています。

松方巌は、1883年にドイツ帝国へ留学し、ライプツィヒ大学などで学びました。帰国後、官僚としての道を歩むこともできましたが、実業界へと転身します。

彼は、十五銀行で副頭取、そして頭取を務めるなど、日本の金融界で重要な役割を果たしました。その他にも、東京銀行集会所副会頭、東京商業会議所特別議員、泰昌銀行頭取、横浜正金銀行取締役、帝国倉庫運輸取締役など、数々の要職を歴任しました。

松方巌の華麗な経歴は、彼が1924年に父・松方正義の死去に伴い公爵を襲爵し、貴族院公爵議員に就任したことで、さらに華を添えました。華族としての地位を確立し、日本の政治の中枢に身を置くこととなります。

しかし、1927年の昭和金融恐慌は、松方巌の運命を大きく変えました。十五銀行が事実上経営破綻した際、彼はその責任を痛感し、自身の資産490万円を提供するなど、多大な犠牲を払いました。さらに、三田の本邸、那須の農場、熱海の別荘、そして多くの骨董品など、私財の大半を放出して、同年11月には宮内省に対し爵位返上を申し入れました。

そして、同年12月6日、貴族院公爵議員を辞職し、爵位を返上。一切の公職から身を退き、静かに余生を過ごしました。この決断には、公の立場における責任感と、揺るぎない倫理観が見て取れます。

松方巌は、1942年に死去しました。彼の家督は、松方正義の十三男である三郎が養嗣子として継承しました。青山霊園に眠る彼の墓所は、波瀾万丈の人生を歩んだ彼の静かな安息の地と言えるでしょう。

松方巌の生涯は、明治から昭和初期にかけての激動期を生き抜いた、一人の実業家、政治家、そして華族の物語です。彼の功績は、日本の金融史、政治史、そして華族史において重要な位置を占めています。彼の生き様は、現代社会においても多くの示唆を与えてくれるでしょう。

栄典

1884年（明治17年）10月3日 - 従五位
1891年（明治24年）6月16日 - 正五位
1898年（明治31年）6月20日 - 従四位
1916年（大正5年）1月4日 - 勲四等旭日小綬章
1920年（大正9年）1月28日 - 銀杯一個
1923年（大正12年）12月28日 - 金杯一個

親族

父：松方正義
母：松方満佐子（薩摩藩士・川上左太夫長女）
弟：松方幸次郎（実業家）
妻：松方保子（やすこ、長與專齋長女）
長女：竹子（黒木三次夫人）
養子：松方勝彦（幸次郎四男）（1904-1936）
養子：松方三郎（末弟、登山家、実業家）

参考文献

人事興信所編『人事興信録 第7版』人事興信所、1925年。
『貴族院要覧（丙）』昭和21年12月増訂、貴族院事務局、1947年。
霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 下巻』霞会館、1996年。
衆議院・参議院編『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年。
千田稔『華族総覧』講談社〈講談社現代新書〉、2009年。

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