松沢秀章

異色の牧師、波乱の生涯

日本の牧師、松沢秀章（まつざわひであき）は、1953年に生を受け、2006年 12月21日にその生涯を終えました。彼は単に教壇に立つだけでなく、親友であるアーサー・ホーランド宣教師と共に、型破りともいえる様々な活動を展開したことで知られています。元暴力団組員への伝道団体「ミッション・バラバ」や、バイク愛好者のクリスチャンチーム「ザ・ロード・エンジェルズ」の創設に関わるなど、常識にとらわれない伝道スタイルを貫きました。また、説教家として多くの聖会で語り、詩人としても活動するなど、多才な一面も持ち合わせていました。

生涯の軌跡

松沢秀章の人生は、決して平坦なものではありませんでした。埼玉県で生まれた彼は、幼少期から少年時代にかけては、シンナーに手を出すなど不良行為に走ります。学生時代には剣道部に所属するも、問題を起こして退部するなど、荒れた青春時代を送りました。

彼の人生が大きく転換したのは、1972年頃、19歳の時でした。シンナー中毒に苦しんでいた彼は、たまたま父親が野外伝道で受け取った教会の案内チラシを目にします。父親の勧めもあり教会を訪れた彼は、そこで基督兄弟団成増教会の牧師夫人と出会い、深い救いの確信を得たといいます。この経験が、その場で牧師になることを決意するきっかけとなりました。

その後、基督兄弟団の神学校である羽鳥聖書学院に入学し、献身の道を歩み始めます。しかし、卒業を目前にして結婚問題から退学。一時、百科事典のセールスマンとして生計を立てていました。

牧師としての歩みと特別な絆

再び牧師の道へ戻る契機を与えたのは、成増教会の小林牧師でした。小林牧師の配慮により、成増教会の副牧師、そして基督兄弟団の補教師として任じられます。小林牧師の司式で結婚した妻は、結婚後わずか3ヶ月で重症の脳腫瘍を患い、予断を許さない状況に陥ります。しかし、松沢夫妻の必死の祈りにより、奇跡的に癒されたといいます。

松沢氏にとって欠かせない存在が、アーサー・ホーランド宣教師です。かつてアメリカ旅行中に面識があった二人は、ホーランド氏が宣教師として来日し、東京に移動した直後の1984年頃に再会。以来、二人は深い友情で結ばれ、生涯にわたり公私両面で多くの活動を共にするかけがえのないパートナーとなりました。

型破りな伝道活動

二人は共に、キリスト教会の枠を超えたユニークな伝道活動を展開します。リバイバル集会「ジェリコ・ジャパン」では説教者として活躍し、1989年には成増教会の主任牧師に就任。1990年には湾岸戦争時の難民キャンプへ救援物資を運搬するなど、社会的な活動にも関わりました。

特に元暴力団員伝道「ミッション・バラバ」とバイクチーム「ザ・ロード・エンジェルズ」の創設は彼の活動の柱です。1993年に始まった元ヤクザたちの聖書研究会に「バラバ」と命名したことがミッション・バラバへと発展。また、1997年に設立したロード・エンジェルズでは、バイクによる国内外での伝道活動（バイク・ミッション）を行いました。

晩年と突然の悲劇

牧師、伝道者として活動する傍ら、松沢氏は詩人としても詩集を出版。映画「クロエ」に出演し、ベルリン国際映画祭に招かれるなど、異分野でも才能を発揮しました。

しかし、晩年は持病のC型肝炎が悪化し、活動休止や余命宣告を受けます。

そして2006年 12月21日、彼の人生は突然の悲劇によって幕を閉じます。埼玉県新座市内のホテルで、知人女性と共に転落し死亡。警察の捜査により覚せい剤が検出されましたが、被疑者死亡のため不起訴処分となりました。過去の薬物使用によるフラッシュバックが原因の事故死の可能性も指摘されています。

事故後の影響

松沢氏の死は所属する基督兄弟団および成増教会に大きな波紋を広げました。教団理事会は声明を発表し謝罪。教会は後任牧師を選任し、教団は再発防止に向けた委員会を立ち上げるなど対応に追われました。

著書

主な著書に詩集『月下の子』、『詩集落伍者の祈り』などがあります。

松沢秀章という人物は、不良から牧師へ、そして型破りな伝道者として、波乱に満ちた生涯を駆け抜けました。

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