松田宏一郎

松田 宏一郎

1961年、広島県に生まれる。日本の政治学者として、特に日本政治思想史を専門分野とし、立教大学法学部にて教授を務めている。

学歴と初期のキャリア

松田宏一郎氏は、1983年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。その後、学術的な探求を深めるため、東京都立大学大学院社会科学研究科の博士課程に進学し、1988年に単位取得の上、満期退学した。大学院では、政治学の泰斗として知られる丸山眞男の門下であった宮村治雄氏に師事し、深い学識と研究方法論を学んだ。1988年から1990年にかけては、立教大学法学部の助手として研究活動を開始。1991年には、「陸羯南における《政論》の方法と明治二〇年代の《政治社会》」と題する論文で法学博士の学位を取得した。

職歴の変遷と国際的な経験

博士号取得後、松田氏は教育機関でのキャリアを進める。1992年には岐阜大学教育学部の助教授に就任し、研究教育に携わった。1995年には立教大学に戻り、同大学の助教授となる。さらに、1998年から2000年にかけては、英国のケンブリッジ大学クレア・ホールにて客員フェローとして招聘され、国際的な視点からの研究交流を行った。帰国後、1999年からは立教大学法学部の教授として、現在に至るまで多くの学生の指導にあたるとともに、活発な研究活動を展開している。

研究内容と主な業績

松田氏の専門である日本政治思想史は、江戸時代から明治にかけての日本の政治思想の変遷や、近代国家の形成過程における思想的な対立や発展を分析する分野である。特に、明治期における言論や政治社会の形成、思想家の役割などに焦点を当てた研究を行っている。その研究成果は高く評価されており、2008年に上梓された『江戸の知識から明治の政治へ』（ぺりかん社）は、江戸時代後期から明治維新を経て近代国家が成立するまでの思想史的な連続性とその変容を詳細に論じた力作として、同年、人文科学分野の優れた業績に贈られるサントリー学芸賞（思想・歴史部門）を受賞した。

また、ジャーナリスト・政治評論家であった陸羯南に関する研究も深く行っており、『陸羯南 自由に公論を代表す』（ミネルヴァ書房、2008年）としてその評伝を著している。近代日本における自由主義思想や公論のあり方について、陸羯南の活動を通して詳細に分析している。さらに、近代日本の政治思想における「擬制」や「自由」といった概念を掘り下げた研究成果は、『擬制の論理自由の不安 近代日本政治思想論』（慶應義塾大学出版会、2016年）として結実している。これらの著作を通じて、日本の近代化過程における政治思想の複雑な様相を明らかにしている。

学術論文に加え、共編著にも積極的に関わっており、五百旗頭薫氏と共に編纂した『歴史のなかの日本政治1　自由主義の政治家と政治思想』（中央公論新社、2014年）では、近代日本における自由主義思想を担った政治家たちの思想や活動を多角的に検証している。

松田宏一郎氏は、長年にわたり日本政治思想史の研究教育に貢献し、その深い知見と分析は、この分野における重要な礎となっている。

もう一度検索