陸羯南

陸羯南（くが かつなん）：国民主義の旗手、その生涯と業績

陸羯南（1857年 - 1907年）は、明治時代の日本において、国民主義の立場から政治評論を展開した人物です。ジャーナリスト、思想家として、日本の近代化に大きな影響を与えました。また、新聞「日本」を創刊し、言論の力で社会を動かそうとしました。正岡子規の才能を見出し、支援したことでも知られています。

生い立ちと青年期

陸羯南は、1857年に弘前藩（現在の青森県弘前市）で生まれました。幼少の頃から学問に励み、藩校や私塾で学びました。しかし、宮城師範学校では校長と対立し退学処分を受けます。上京後、司法省法学校に進みますが、ここでも騒動を起こし、原敬らと共に退校するという異色の経歴を持っています。

ジャーナリストとしての活動

帰郷後、新聞社に入りジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせます。讒謗律により罰金を受けるなど苦難も経験しました。その後、官立紋別製糖所に勤務しますが、不本意な日々を送ります。親戚の陸家の家名を継ぎ、陸姓となりました。1881年に上京し、フランス語翻訳の仕事を経て、太政官御用掛となります。この頃、正岡子規と出会い、支援を始めました。

「日本新聞」の創刊と国民主義の主張

1888年、陸羯南は「東京電報」を創刊しますが、これは短命に終わります。その後、浅野長勲の援助を受け、「日本新聞」を創刊し、主筆兼社長として活躍しました。「日本新聞」は、大隈重信の条約改正案を批判するなど、政府の政策を厳しく批判する論陣を張り、世論を喚起しました。東邦協会の設立にも参画し、国家経済会の発起人にもなりました。彼は、「政治は世論に従うべき」という信念を貫き、多くの論文を発表しました。

正岡子規との関係

陸羯南は、隣に住んでいた正岡子規を物心両面から支援しました。子規に紙面を提供し、生活の面倒を見るなど、その才能が開花するよう尽力しました。子規は陸羯南を「生涯の恩人」と慕っていました。

言論弾圧との闘い

陸羯南の「日本新聞」は、政府批判の急先鋒として、たびたび発行停止処分を受けました。特に、第2次伊藤内閣に対しては、集中的な弾圧を受けました。しかし、陸羯南は自らの信念を曲げることなく、言論の自由を主張し続けました。

その後

晩年は病に苦しみ、1906年に「日本新聞」を譲渡します。その後も社説を担当しましたが、社内の騒動を憂慮し、1907年に51歳で亡くなりました。

人物と政治思想

陸羯南は、明治中期を代表するジャーナリストの一人であり、三宅雪嶺、徳富蘇峰らと並び称されました。鳥谷部春汀は彼を「古処士の風あり」と評し、その政治思想は中国儒教とドイツ国家主義の影響を受けていると分析しました。陸羯南は、貴族と平民の調和を理想とし、行政における知識の重要性を説きました。

著作

陸羯南は、多くの著作を通じてその思想を広めました。『近時政論考』、『国民論派』などの著書は、当時の知識人に大きな影響を与えました。また、ジョゼフ・ド・メストルの『主権原論』を翻訳するなど、海外の思想も積極的に紹介しました。

陸羯南の遺産

陸羯南は、明治という激動の時代に、国民主義の立場から日本の進むべき道を指し示した人物です。その言論活動は、日本の民主主義の発展に大きく貢献しました。また、正岡子規という великий 文学者の才能を見出し、育てた功績も忘れてはなりません。彼の思想と行動は、現代においても学ぶべき点が多くあります。

参考文献

川辺真蔵『報道の先駆者 羯南と蘇峰』三省堂、1943年
吉田憲次『国士 陸羯南』昭和刊行会、1944年
植手通有『陸羯南』朝日新聞社〈朝日選書〉、1975年
小山文雄『陸羯南「国民」の創出』みすず書房、1990年
本田逸夫『国民・自由・憲政 陸羯南の政治思想』木鐸社、1994年
有山輝雄『陸羯南』吉川弘文館〈人物叢書〉、2007年
朴羊信『陸羯南 政治認識と対外論』岩波書店、2008年
松田宏一郎『陸羯南 自由に公論を代表す』ミネルヴァ書房〈日本評伝選〉、2008年

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