松葉蘭

松葉蘭（マツバラン）とは

松葉蘭は、マツバランの古典園芸植物としての名称です。マツバランは、本州南部以南の岩上などに自生する着生植物で、ヒカゲノカズラ植物門マツバラン科に属します。葉がなく、箒のように枝分かれした姿が特徴です。この特異な姿から古くから栽培され、枝振りや模様に特徴のあるものが選ばれてきました。これらの品種は、現在も古典園芸植物として愛好されています。

歴史

松葉蘭の栽培は、江戸時代に遡ります。天保7年（1836年）には「松葉蘭譜」という専門書が著され、120もの品種が紹介されました。この頃には松葉蘭に関する専門書が他にも出版されており、栽培は明和年間（1764年～1772年）頃から始まったと考えられています。当時、松葉蘭は大変な人気を博し、高価な品種は家や土地と交換されるほどでした。

明治時代に入ると、古典園芸への関心が再び高まり、明治13年には大阪で「竺蘭見立競」（竺蘭は松葉蘭のこと）が開催され、69品種が掲載されました。明治期には、他にも出版物があり、数十種の品種が栽培されていましたが、その後、人気は一時的に下火となりました。しかし、昭和時代に入ると再び注目を浴び、昭和10年代には約60品種が記録されました。戦争によって一時中断されましたが、昭和40年代以降、再び愛好家が増え、現在では50種ほどの品種が現存しています。

鑑賞の要点

松葉蘭は、花も葉もない植物であるため、枝振りと色が鑑賞のポイントとなります。胞子嚢のつき方も特徴の一つですが、これは枝振りの一部として捉えられます。松葉蘭の茎は寿命が長く、大株になると多数の枝が密生し、盆栽のような風格を呈します。

形

松葉蘭の枝の形や分かれ方には、以下のような特徴があります。

棒: 茎が丸く、真っすぐ伸びるもの。
縮緬: 枝の基部が細かく屈曲するもの。
柳: 枝が寄り添い、先端が斜め下を向くもの。枝垂れ柳に似ている。
玉折: 胞子嚢のついた部分で枝が大きく曲がるもの。
角: 鹿の角のように太く逞しいもの。
獅子: 枝が大きく広がるもの。
石化: 枝が平らになるもの。
九十九: 分枝が非常に多く、先端が細かい枝の集まりになるもの。
捻: 茎や枝がねじれるもの。
髭: 針状の葉が目立つもの。
霊芝: 枝の先端が丸く巻き込むもの。
羅紗地: 表面に細かなしわがあるもの。
折り鶴: 枝先が直角に折れるもの。
八重: 上記の形が繰り返されるもの。

斑

通常、松葉蘭は緑色ですが、白や黄色の斑入りのものもあります。また、赤みを帯びることもあります。斑は枝先に出ることが多いですが、中ほどに出るものもあり、これは三光と呼ばれます。斑の部分が透明に見えるものは、透けると表現されます。

代表的な品種

金九十九: 枝先が細かく分かれ、黄色く芽出し、成長すると赤みを帯びた黄色い斑が入る。
錦玉: 金九十九に似て、斑の色は白っぽい黄色。
九十九金斑: 中軸、枝が先端に向かって細かく分かれ、先端に黄色い斑が入る。
富士の雪: 細軸、形は素直で白い斑が入る。
富岳の虹: 中軸、まばらな分枝で、斑は季節によって白、黄色、紅、紫など多彩に変わる。
水晶楽: 細軸で枝先が特に細く、株全体が透けて赤みを帯びる。
鳳凰柳: 太軸で無地、枝先が枝垂れ柳のように垂れる。
鳳明竺: 細軸無地、分枝が強く密着し、細い束になる。
折鶴: 細軸無地、石化し、枝先に折り鶴が出る。
霊芝角: 中軸、無地で羅紗地、枝分かれが少なく先端が巻き込む。
麒麟角: 太く無地、石化があり、不規則な枝分かれをする。
八重麒麟: 一年芽に麒麟角に似た枝が出て、二年目にその一部が伸びて同じような枝振りになる。
福禄寿: 太く無地、ほとんど枝分かれせず直立する。
青竜角: 太く無地、根元で枝分かれし、屈曲しながら伸びる。

参考文献

『古典園芸植物　種類と作り方』ガーデンライフ編／誠文堂新光社(1982)
『趣味の古典園芸植物』主婦の友社(1975)
* 『総合種苗ガイド3　古典園芸植物編』誠文堂新光社(1967)

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