松風町 (函館市)

松風町（まつかぜちょう）

北海道函館市の中心市街地に位置する松風町は、かつての旧市街地が広がる砂州状の地形のほぼ中央部に所在する町丁です。この町の歴史は、明治32年（1899年）にさかのぼります。当時、現在の東川町の一部であった地域が分割され、「松風町」として新たに誕生しました。

その特徴的な町名は、かつてこの地にあった自然の風景に由来すると伝えられています。現在の成田山函館別院函館寺や、新川小学校の周辺には、小さな松林が存在していました。これらの松林は、海岸に近接する地理的な条件から、海からの強い風や砂の飛来を防ぐための防風林、あるいは防砂林として重要な役割を担っており、地域の生活を守る上で欠かせない存在でした。この歴史的な松林にちなんで、「松風町」と名付けられたのです。

松風町は、近接する大門地区と一体となり、函館市の商業や娯楽の中心地として長らく賑わいを築いてきました。特に昭和期には、その活気は頂点に達したと言えるでしょう。かつては「彩華デパート」のような多くの人々で賑わう大型商業施設が存在したほか、「函館東宝」や「函館映劇」といった映画館が軒を連ね、休日や夜間には多くの市民や観光客で活気にあふれていました。現在、大門広小路として知られる場所は、はこだてグリーンプラザとして整備されていますが、かつての賑わいの名残を感じさせます。

交通面においても、松風町は重要な結節点としての機能を果たしています。町内には国道278号や北海道道83号函館南茅部線といった主要な幹線道路が通っており、自動車でのアクセスが良いほか、函館市企業局交通部が運行する函館市電の「松風町停留場」が設置されており、公共交通機関を利用する上でも非常に利便性の高い立地です。

現在の松風町には、地域経済を支える金融機関として渡島信用金庫の函館支店が拠点を構えています。また、娯楽施設としては、公営競技である函館競輪の場外車券場である「サテライト松風」や、複数のスクリーンを備えた「シネマ太陽函館」があり、現在も娯楽を提供する場として親しまれています。かつて存在した北洋銀行函館支店のように、時代の流れとともにその姿を変えた施設もありますが、往時の中心地としての名残は随所に見て取れます。

松風町は、地域文化との関わりも深い町です。函館を代表するご当地グルメである函館ラーメンの歴史とも無関係ではありません。かつてラーメンが市民に広く親しまれるようになった最盛期には、夜になると多数の流し屋台が松風町界隈に登場し、仕事帰りの人々などで大変な賑わいを見せました。また、地域に根差した製麺所が複数存在していた歴史があり、現在もそのうちの一つが伝統の味を守り続けています。さらに、演歌界の巨匠、北島三郎氏が歌う代表曲の一つ、「函館の女」の歌詞にも「松風町」の名が登場するなど、歌謡曲を通じて広くその存在を知られています。

このように、松風町は明治期からの歴史を持ち、かつての松林に由来する町名、商業・娯楽の中心地としての栄華、交通の要衝としての現在の役割、そして地域文化との深いつながりを持つ、函館市の中でも特に歴史と文化が凝縮された町と言えるでしょう。時代の変化とともに街の風景は移り変わってきましたが、かつての賑わいを偲ばせる要素と、現在の生活を支える機能が共存しています。

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