林倭衛

林倭衛：激動の時代を生きた洋画家

林倭衛（1895-1945）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本の洋画家です。長野県上田市生まれ。幼少期に家庭の事情で苦労し、15歳頃から東京で働きながら絵画の道を歩み始めました。

貧困と芸術の狭間で

貧しいながらも、林倭衛は絵画への情熱を燃やし続けました。日本水彩画研究所で学び、丸山晩霞に師事。夜間学校に通いながら、日々の生活費を稼ぐため道路人夫などの厳しい労働にも従事しました。この頃から、無政府主義者グループ「サンジカリズム研究会」に所属し、大杉栄らと交流を持ちました。その思想的な結びつきは、後の彼の作品や人生に大きな影響を与えます。

二科展入選と思想弾圧

1916年、林倭衛は二科展に初入選。その後も才能を発揮し、1918年には樗牛賞を受賞するなど、順風満帆な時期を過ごしました。しかし、1919年に発表した大杉栄を描いた作品「出獄の日のO氏」が、当局によって撤回を命じられるという出来事が起こります。これは、美術界への思想弾圧の端緒として、林倭衛の名を広く知らしめることとなりました。この出来事が、彼の画家としての道を、より複雑で困難なものにしたことは想像に難くありません。

パリでの研鑽と帰国

1921年、林倭衛は渡欧。主にパリに滞在し、後期印象派の画風を学びながら制作活動に励みました。この間、大杉栄に関する回想録『仏蘭西監獄及び法廷における大杉栄』を発表しています。パリでの経験は、彼の芸術観を大きく変え、新たな表現方法を模索するきっかけとなりました。

浦和での晩年

1926年に帰国した林倭衛は、春陽会会員となり、精力的に作品を発表しました。1941年には、埼玉県浦和市（現さいたま市）に移住。別所沼畔にアトリエを構え、終の棲家としました。このアトリエには、須田剋太や里見明正といった同時代の画家たちがしばしば訪れ、交流を深めました。晩年の林倭衛は、浦和の風景を題材にした作品を多く残し、その静謐な美しさは、彼の内面の穏やかさを反映しているかのようです。

作品と複雑な私生活

代表作に『出獄の日のO氏』や『別所沼』などがあります。『別所沼』は現在、埼玉県立近代美術館に収蔵されています。私生活では、結婚と離婚、そして複数の恋人との間に子供をもうけるなど、複雑な人生を送りました。これらの人生経験は、彼の作品に奥行きを与え、見るものに様々な感情を呼び起こす力を持っていると言えます。

まとめ

林倭衛は、貧困、思想弾圧、そして複雑な私生活という困難な状況の中、持ち前の才能と強い意志で画家としての道を歩み続けました。彼の作品は、激動の時代を生きた一人の芸術家の、揺るぎない情熱と深い内面を映し出しています。彼の生涯は、芸術家としてのみならず、一人の人間としての生き様を私たちに示唆するものです。彼の作品を通して、激動の時代と、その中で懸命に生きた一人の画家の人生に思いを馳せてみましょう。

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