林健久

林 健久

林 健久（はやし たけひさ）氏は、1932年3月27日に生まれた日本の著名なマルクス経済学者です。特に財政学を専門分野とし、長年にわたり研究と教育に貢献しました。自らを「最後のマルクス経済学者」と称したことでも知られています。

学歴と職歴

林氏の学術キャリアは、東京大学から始まりました。1955年に東京大学経済学部を卒業後、同大学院社会科学研究科に進み、1960年に満期退学しました。大学院修了後は東京大学で助手として研究を続け、その後のキャリアの基礎を築きました。

1964年には、後に博士論文として結実する「明治前期の租税構造」の研究により、東京大学から経済学博士の学位を取得しました。この研究は、日本の近代財政史における重要な時期に焦点を当てたものであり、その後の研究活動の方向性を示すものとなりました。

学外では、1963年に立正大学の教授に就任し、教育者としての第一歩を踏み出しました。その後、1975年には母校である東京大学経済学部に教授として着任し、日本の最高学府で後進の指導にあたるとともに、財政学研究の第一線で活躍しました。東京大学での在職期間は長く、多くの学生や研究者に影響を与えました。

1993年に東京大学を定年退官し、同大学の名誉教授の称号を得ました。定年後も研究教育への情熱は衰えず、流通経済大学経済学部の教授として再び教壇に立ちました。また、学術界での貢献に加え、地方財政審議会会長を務めるなど、国の政策形成にも深く関与しました。

研究分野と業績

林氏の専門は財政学でしたが、マルクス経済学の視点から国家の財政構造やその歴史的変遷を分析する点に特色がありました。特に、日本の租税制度の成り立ちや、福祉国家における財政のあり方、地方財政の問題など、多岐にわたるテーマを研究対象としました。

主要な研究テーマには、明治期における租税国家の形成過程の分析や、戦後日本の地方財政に関する研究などがあります。これらの研究は、日本の財政史や財政制度に対する深い洞察を提供しました。

「最後のマルクス経済学者」という自称は、彼がマルクス主義的な分析手法を堅持しつつ、現代の財政問題を論じる姿勢を示唆しています。これは、当時の経済学界の潮流に対する林氏の強い意志表明であったと言えるでしょう。

主な著作

林健久氏は、その研究成果を多くの著書として発表しています。主な単著には以下のようなものがあります。

『日本における租税国家の成立』（東京大学出版会、1965年）
『ニュー・ディールと州・地方財政』（御茶ノ水書房、1969年）
『昭和財政史：終戦から講和まで 第16巻地方財政』（東洋経済新報社、1978年）
『財政学講義』（東京大学出版会、1987年）
* 『福祉国家の財政学』（有斐閣、1992年）

これらの単著は、日本の租税制度、戦後財政史、現代財政学、福祉国家論など、林氏の主要な研究テーマを網羅しています。

また、多くの研究者との共同研究にも積極的に取り組み、共著や共編著も多数あります。代表的なものとしては、日本の財政構造や統計に関するもの、マルクス経済学の論理と分析、政府間財政関係、福祉国家財政の国際比較、地方財政、グローバル化と福祉国家財政の再編など、その内容は広範囲に及びます。特に、貝塚啓明氏、武田隆夫氏、加藤栄一氏、宮本憲一氏らとの共著・共編著は、各分野における共同研究の重要性を示しています。

林健久氏の研究業績は、日本の財政学、特にマルクス経済学の視点からの財政研究において重要な位置を占めています。その教育者としての貢献も含め、日本の学術界に大きな足跡を残しました。

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