柯劭忞

柯劭忞（か しょうびん、1850年代または1860年代-没年不明）は、清末から中華民国初期にかけて活躍した歴史家です。字（あざな）は鳳孫（ほうそん）といい、教育者としても活動し、輔仁大学で教授および理事を務めました。

1886年、科挙に合格して進士となり、翰林院庶吉士（かんりんいんしょきし）に任官されました。翰林院は、皇帝の諮問に応じたり、歴史編纂などの文化事業を担う機関です。清朝が滅亡し中華民国が成立すると、柯劭忞は歴史研究に専念し、特に元朝の歴史に関する研究に取り組みました。

その成果として、柯劭忞は『新元史』を単独で編纂しました。『新元史』は、従来の『元史』の成立から約500年間にわたる歴史研究の成果を集大成し、新たな史料や解釈を加えて内容を補完し、誤謬を訂正したとされています。その学術的な価値は非常に高く、歴史学界から高く評価されています。日本においてもその業績は認められ、1923年12月10日には東京帝国大学（現在の東京大学）から文学博士の学位を授与されています。

1919年、当時の大総統であった徐世昌（じょ せいしょう）は、『新元史』を正史として認め、中国の歴代王朝の歴史をまとめた「二十五史」に加えるという大総統令を発令しました。これは、『新元史』が公的に歴史書として認められたことを意味し、柯劭忞の歴史家としての功績を象徴する出来事といえるでしょう。

また、柯劭忞は歴史編纂事業にも携わっています。1914年に袁世凱（えん せいがい）が清史館を設立し、趙爾巽（ちょう じそん）を館長に任命すると、柯劭忞もその編纂作業に加わりました。彼は主に「儒林伝（じゅりんでん）」「文苑伝（ぶんえんでん）」「疇人伝（ちゅうじんでん）」の整理を担当し、さらに「天文志（てんもんし）」を単独で執筆しました。

『清史稿』は1920年に初稿が完成し、1926年に校訂作業が開始され、1928年に正式に出版されました。清朝の歴史を記したこの歴史書は、柯劭忞の歴史家としての知識と経験が集約されたものといえるでしょう。

晩年の1925年には、柯劭忞の日本との関係が評価されたためか、日中共同の東方文化事業の中国側委員に任命され、同事業総委員会の総裁に選出されました。しかし、1928年に日本軍が済南事件（さいなんじけん）を引き起こすと、柯劭忞は他の中国側委員とともに抗議の意を表して辞職しました。これは、柯劭忞が愛国者としての意識も持ち合わせていたことを示す出来事といえるでしょう。

柯劭忞は、歴史家として『新元史』や『清史稿』の編纂に尽力し、中国の歴史研究に大きく貢献した人物です。また、教育者としても多くの学生を育て、文化交流にも携わりました。その功績は、今日においても高く評価されています。

もう一度検索