柳宗玄

柳宗玄は、1917年2月18日、東京府に生まれました。父は民藝運動で知られる柳宗悦、母は声楽家の柳兼子、妻は志賀直哉の四女・万亀子という芸術一家に育ちました。幼少期から芸術活動に触れ、東京帝国大学では法学部と文学部を卒業しています。

1952年から3年間、フランスとベルギーに留学し、美術史を学びました。この留学経験は、彼の人生と研究に大きな影響を与えました。留学中は絵画にも取り組み、帰国後は東京芸術大学助教授に就任。その後、お茶の水女子大学教授、定年後は武蔵野美術大学教授として、後進の育成にも尽力しました。

学術的な活動以外でも、柳宗玄は多岐にわたる活動で知られています。『學士會会報』の表紙図案・カットを1965年から2009年まで担当し、そのデザインセンスは高く評価されました。また、1966年にはトルコのカッパドキアへ古代オリエント美術調査団の一員として参加するなど、国際的な視野も持っていました。

彼の研究は、とりわけフランスの画家ジョルジュ・ルオーに深く傾倒しており、ルオー研究の第一人者としての地位を確立しました。ルオーの作品に対する深い理解と独自の解釈は、数多くの著書や論文に反映されています。1972年には『ロマネスク美術』（学研）の編集で毎日出版文化賞を受賞するなど、その業績は高く評価されています。

研究活動の傍ら、多くの書籍を執筆・編著しました。その著作は、西洋美術史、特にキリスト教美術やロマネスク美術に関するものが多くを占めています。緻密な調査と深い洞察に基づいた著作は、美術史研究に大きな貢献を果たしました。彼の著書は、専門家だけでなく、一般の読者にも分かりやすく、親しみやすいものとして高く評価されています。

主な著書には『アミヤン大聖堂』『聖書画集 ブレイク』『キリスト 美術にみる生涯』『太陽と洞窟の谷 トルコ秘境調査行』『カッパドキヤの夏』『秘境のキリスト教美術』『西洋の誕生』『黒い聖母』『虚空散華－生命のかたち』『かたちとの対話』『十二支のかたち』『色彩との対話』『ロマネスク美術』『ロマネスク彫刻の形態学』『サンティヤーゴの巡礼路』『祈りとともにある形 インドの刺繍・染と民画』などがあります。

編著書も多数あり、『世界の美術2 中世の美術』『カッパドキヤ』『大系世界の美術9 東方キリスト教美術』『大系世界の美術10 初期ヨーロッパ美術』『大系世界の美術11 ロマネスク美術』『世界の聖域7 アジャンター窟院』『世界の建築4 ロマネスク・東方キリスト教』『幻のケルト人 ヨーロッパ先住民族の神秘と謎』『ルオー キリスト聖画集』『キリスト教美術図典』『太陽王国の遺産』など、美術史研究に多大な貢献をしました。

また、フランス語からの翻訳にも携わり、『パリサイ女』『世界美術史』『ルオー』『紀元千年のヨーロッパ』『ルオー全版画』『ヨーロッパのキリスト教美術－12世紀から18世紀まで』『ルオー全絵画』などの翻訳書を残しています。

101歳で逝去した柳宗玄。その生涯は、美術史研究への揺るぎない情熱と、芸術一家としての誇り高い歴史とが一体となっており、現代美術史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、今後も美術史研究において重要な資料として活用されることでしょう。

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