柿田川

柿田川：日本最短の一級河川と豊かな湧水

静岡県駿東郡清水町を流れる柿田川は、その短い川の長さにも関わらず、日本の自然を代表する河川の一つとして知られています。全長約1.2kmと、日本最短の一級河川に指定されている柿田川は、かつては「泉川」と呼ばれ、周辺地域は「泉郷」として栄えていました。その名の通り、柿田川は、数十カ所以上の湧水からなる豊富な水量を誇り、まさに「東洋一の湧水」と称えられるほどの大量の湧水を水源としています。この特徴的な水源は、約8500年前の富士山噴火による三島溶岩流に浸透した雨水や雪解け水が、地中深くを流れ、溶岩流の先端部から湧き出したものだと考えられています。

類まれな自然環境と保全活動

柿田川の水温は、季節を問わずほぼ一定の15℃前後を保ち、年間を通して流量も安定しています。この安定した水質と水量は、希少な水中植物であるミシマバイカモの生育を支え、多様な生物が生息する豊かな生態系を育んでいます。アユやアマゴなどの魚類、カワセミなどの鳥類、ゲンジボタルなどの昆虫など、様々な生き物たちが柿田川とその周辺に息づいています。

しかし、かつて柿田川は、工場からの排水による水質汚染に苦しみました。水質悪化によって魚類が激減するなど、深刻な環境問題に直面したのです。1970年代には護岸工事によってコンクリートで川縁が覆われることもありました。しかし、1975年から始まった地元住民による保護活動は、1980年代には「柿田川みどりのトラスト」というナショナルトラスト運動へと発展し、自然環境の保全に向けた大きな転換点となりました。この運動を通して、工場の移転や土地の買い上げ、そして地道な清掃活動が続けられ、現在ではカワセミなどが生息する豊かな自然環境が再生されました。現在もトラスト地の買い上げは続けられており、この貴重な自然を守るための努力が継続されています。

柿田川湧水群と水資源

柿田川の湧水量は、1日あたり約100万m³にも及ぶとされています。この豊富な湧水は、上水道用水として清水町だけでなく、周辺の沼津市、三島市、長泉町などにも供給されており、地域社会の生活を支える重要な水資源となっています。ただし、水利権は沼津市水道部が保有しています。

柿田川公園と周辺施設

柿田川の豊かな自然を体感できる施設として、柿田川公園が挙げられます。1986年4月に開園したこの公園は、湧水を見ることができる展望台や、川沿いを散策できる遊歩道が整備されており、多くの観光客が訪れます。公園の東側には、「泉の館（高野邸）」と呼ばれる憩いの場があり、柿田川の湧水を使った蕎麦や豆腐などの飲食が楽しめるほか、湧水を飲むことも、持ち帰ることもできます。

柿田川の文化的価値

柿田川は、その豊かな自然と歴史から、様々な形で評価されています。1985年には「柿田川湧水群」として名水百選に選定され、さらに国の天然記念物（地質・鉱物）にも指定されています。河川そのものが天然記念物に指定されるのは大変珍しく、沖縄県の塩川に次いで2例目です。「日本の秘境100選」にも選ばれており、その希少性と魅力が広く認められています。

柿田川は、自然の恵みと人々の努力によって守られてきた貴重な場所です。その美しい景観と豊かな生態系は、未来へと受け継いでいかなければならない大切な財産と言えるでしょう。

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