栄実

栄実（えいじつ）：波乱に満ちた鎌倉将軍の子の生涯

栄実（1201年 - 1215年）は、鎌倉幕府第2代将軍、源頼家の三男または次男として生まれました。母は法橋・一品房昌寛の娘であり、異母兄に一幡と公暁、同母または異母弟に禅暁、異母妹に竹御所がいました。幼名は千寿丸または千手丸と伝えられています。

激動の時代に翻弄された幼少期

栄実がわずか4歳の時、父・頼家が亡くなりました。その後、尾張中務丞によって養育されていた栄実ですが、北条氏に反感を持つ信濃国の御家人、泉親衡に担ぎ上げられ、北条義時誅殺の陰謀に加担させられるという、数奇な運命をたどります。これが建保元年（1213年）2月に発覚し、泉親衡の乱へと発展しました。

出家、そして最期

乱の後、栄実は祖母である北条政子の命により出家し、栄西の弟子となって法名を栄実と改めます。しかし、その平穏も長くは続きませんでした。建保2年（1214年）11月13日、和田義盛・土屋義清らの残党が京で謀反を企て、栄実を擁立したことが露見。一条北辺の旅亭にて、大江広元の在京家人の襲撃を受け、栄実は自害しました。享年は14歳であったと伝えられています。

史料における曖昧な記述

ただし、『吾妻鏡』には「栄実」「千寿丸」「千手丸」といった名前は一切登場しません。泉親衡に擁立された頼家の「若君」、政子の計らいによって出家させられた頼家の「若公」、義盛らの残党に擁立された頼家の「御息」として記述されているのみです。『愚管抄』にも、頼家の子で栄西に従って法師になった「禅師」が義盛方の残党に擁立され、討たれて自害したと記されているだけで、名前は出てきません。また、『尊卑分脈』などの多くの史料では、栄実は承久元年（1219年）10月6日に自害したとされています。これらのことから、従来の通説として語られてきた栄実の事績には、疑義が呈されています。

伝説・伝承

埼玉県川越市小ヶ谷町にある瑶光山最明寺の縁起伝承によれば、千寿丸は泉親衡とともに当地に落ち延びて出家し、「瑶光房道円」と名乗ったとされています。また、『和泉往来』という文献では、鎌倉郡野庭村（横浜市港南区野庭町）の野庭関城に隠遁し、百姓に養育されたと伝えられています。

栄実の生涯は、史料の乏しさから不明な点が多く、伝説や伝承も多く残されています。しかし、鎌倉幕府初期の動乱期に、若くして翻弄された人物として、その存在は歴史に刻まれています。

参考資料

泉区小史編集委員会『いずみ いまむかし』pp.72-74 横浜市泉区、1996年
矢代仁『公暁―鎌倉殿になり損ねた男』株式会社ブイツーソリューション、2015年

関連項目

泉親衡の乱
和田合戦

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