栗原信

栗原信：教師から従軍画家へ、そして国際的な水彩画家へ

栗原信（くりはら しん、1894年3月24日-1966年7月4日）は、日本の洋画家である。水彩画を主に、独自の画風で知られる彼は、教育者としての顔も持ち合わせていた。本名は栗原信賢。茨城県東茨城郡茨城町で生まれ、1912年には茨城師範学校を卒業している。

教師としてのキャリアを経て、彼の芸術家としての道は本格的に幕を開けた。1916年、二科展に初入選を果たす。その後も順調に入選を重ねる一方、1918年には二科展落選を機に小説家を志し、文壇の仲間たちと同人誌「世紀」を創刊するなど、多方面に才能を開花させた。しかし、彼の情熱は再び絵画へと傾き、1926年には再び二科展で入選を果たした。

画業に専念するため、1928年には教職を辞し、フランスへ留学。アカデミー・ドゥ・ラ・グランド・ショミエールで研鑽を積んだ。3年後の1931年に帰国すると、二科展に10点もの作品を特別出品し、昭和洋画奨励賞を受賞するなど、その才能は高く評価された。その後も台湾や満州への旅行を通して、外地の風景を積極的に作品に取り入れるようになる。

1936年には二科会の新会員に迎えられ、順風満帆な画家人生を歩んでいたかに思われたが、1938年には従軍画家として徐州会戦に同行。以後、戦争画の制作にも携わるようになる。1939年には陸軍美術協会の設立発起人にも名を連ね、1940年から1941年にかけてはマレー作戦にも従軍した。この経験に基づいて制作された作品の中には、『怒江作戦』、『ジョホール渡過を指揮する山下軍司令官（ジョホール王宮）』『湘江補給戦に於ける青紅幇の協力』など、現在も東京国立近代美術館に収蔵されている作品が含まれる。これらの作品は戦後、連合国軍最高司令官総司令部によって軍国主義的なものとして没収され、アメリカ合衆国へ持ち出されたのち、1970年に無期限貸与という形で日本へ返還されたという複雑な歴史を持っている。

戦後、栗原は復活した二科会には参加せず、正宗得三郎、宮本三郎らとともに第二紀会を創設。二紀展を中心に精力的に作品を発表し続けた。1950年には新潟大学教授に就任。1950年代以降は再び欧州などへ写生旅行に出かけ、海外の風景を題材とした作品が増えていった。1966年、東京での個展開催中に脳血栓で倒れ、7月4日に死去。彼の葬儀は二紀会葬として営まれ、多磨霊園に眠る。

栗原信は、教師、小説家志望、そして国際的な水彩画家としての顔を持つ、多様な才能を持った人物だった。彼の作品は、信州新町美術館にも多く収蔵されており、その独特の画風は多くの人々を魅了し続けている。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた芸術家の波乱に満ちた物語として、今もなお語り継がれている。

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