栗原彦三郎

栗原彦三郎：激動の時代を生きた多才な人物

栗原彦三郎（くりはら ひこさぶろう）は、1879年（明治12年）3月25日に栃木県に生まれ、1954年（昭和29年）5月5日に没した、明治から昭和前期にかけての人物です。彼は、雑誌編集者、政治家（衆議院議員）、そして刀匠という、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。号は昭秀、晃南。

生い立ちと田中正造からの薫陶

栗原彦三郎は、栃木県安蘇郡閑馬村（現在の佐野市閑馬町）で、大地主である栗原喜蔵の次男として誕生しました。彼は、幼少期から田中正造の薫陶を受け、その影響を強く受けました。1891年（明治24年）には正造に伴い上京し、青山学院中学部で学びました。在学中の1896年（明治29年）には、津田仙を足尾銅山に案内したり、東京で演説会を開催するなど、足尾鉱毒事件の解決に尽力しました。その後、早稲田大学や日本大学でさらに知識を深めました。

雑誌編集者、そして政治家としての活動

1917年（大正6年）には、中外新論社の経営に参画し、社長に就任。『中外新論』を刊行し、反軍縮や英米の思想謀略の排除といったテーマで論陣を張りました。1926年（大正15年）には東京市赤坂区会議員に選出され、翌1927年（昭和2年）には東京市会議員に選ばれました。1928年（昭和3年）には、第16回衆議院議員総選挙に立憲民政党公認で栃木県第2区から出馬し、初当選を果たしました。その後、1932年（昭和7年）の第18回総選挙まで再選を重ね、衆議院議員を3期連続で務めました。

刀匠としての活動と日本刀の復興への尽力

栗原彦三郎は、日本刀の振興にも力を注ぎました。1935年（昭和10年）には、『日本刀及日本趣味』を創刊し、1945年（昭和20年）3月まで刊行を続けました。また、1926年には東京市赤坂区赤坂氷川町（現在の東京都港区赤坂六丁目）の旧勝海舟邸跡に日本刀鍛錬伝習所を設立しました。政界引退後には大日本刀匠協会を設立し、理事長に就任しました。太平洋戦争末期には、神奈川県座間の陸軍用地に日本刀学院を開設し、刀工の養成を行いました。

戦後、郷里の田沼町で日本刀の復興に尽力し、日本刃物工芸協会を設立。1952年（昭和27年）には、通商産業省から各国元首に寄贈するための講和記念刀300口の製作許可を得ることに成功し、全国の刀匠に製作させましたが、彼の死去により寄贈は実現しませんでした。

著作と作品

栗原彦三郎は、数々の著作を残しています。

『あらきのまゝ』中外新論社、1926年
『北支の眞相を談る』栗原彦三郎、1935年
『従軍雑詠』中外新論社、1935年
『出流山尊王義軍』鍾美堂、1943年
編著『田中正造自叙伝』中外新論社、1926年

また、彼が製作した日本刀のうち、以下の6口は栃木県指定有形文化財に指定されています。

太刀 銘「（表）頭山満燁之 （裏）昭和八年十一月吉日下野住人栗原彦三郎昭秀鍛之」
刀 銘「（表）勲四等栗原彦三郎昭秀謹作 （裏）昭和一七年八月吉日越後国昭忠彫之」
太刀 銘「（表）於相武台下歓喜入道昭秀作之 （裏）昭和十八年八月吉日」
太刀 銘「栗原昭秀謹作之」
太刀 銘「栗原昭秀作」
刀 銘「（表）栗原彦三郎昭秀造之 （裏）昭和八年十二月吉日以満州本渓湖産海綿鉄」


これらの作品は、彼の刀匠としての卓越した技術を今に伝えています。

伝記

『栗原彦三郎昭秀全記録 日本刀を二度蘇らせた男』栗原彦三郎伝記刊行会、2000年

まとめ

栗原彦三郎は、激動の時代を背景に、雑誌編集、政治、刀匠という多岐にわたる分野でその才能を発揮した人物です。彼の生涯は、日本の近代史における重要な一側面を映し出しており、後世に多くの影響を与え続けています。

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