栗山町営バス

北海道の中央部に位置する夕張郡栗山町で運行されている、町が運営するバス路線網です。その始まりは、1953年から長年にわたり地域住民の移動手段を担ってきた北海道中央バスが、過疎化や自家用車の普及による利用者の減少、それに伴う赤字経営を理由に、1990年3月に農村地域からの撤退を決定したことに遡ります。

中央バスの撤退は、滝下、雨煙別、鳩山、北学田といった地域の住民にとって、重要な交通手段が失われることを意味しました。この状況に対応するため、栗山町は地域住民の足を確保するべく立ち上がり、1990年4月、町営バスの運行を開始しました。当初は栗山駅と滝下を結ぶ「滝下線」、そして栗山駅を中心に雨煙別、鳩山、北学田地区を巡る「鳩山循環線」の2路線で、3台の車両によって運行が始まりました。

沿革と発展

運行開始後、栗山町営バスはその役割を拡大していきます。1998年4月には、従来の2路線に加え、「鳩山循環線B」や「栗山角田循環線」、「杵臼角田線」、「南学田栗山線」、「継立円山線」の5路線を新たに開設し、合計7路線体制となりました。これにより路線の総延長は、当初の約41.2キロメートルから143.8キロメートルへと大幅に拡充されました。この時期、町は運行経費を抑制するため、児童生徒のスクールバスに一般の乗客も乗車させる「混乗方式」を導入しています。また、高齢者や障がいのある方も利用しやすいよう配慮された「ノンステップバス」の試験運行を開始し（翌1999年8月に正式運行へ移行）、全国に先駆けた先進的な交通システムの構築を目指しました。当時の車両体制は、町営バス用3台、児童用スクールバス3台、保育所バス1台を合わせた計7台でした。

2000年には、北海道がバス事業の規制緩和を見据え、過疎地域での路線維持や復活に取り組む市町村への補助制度を創設しました。栗山町営バスは、夕張鉄道バスから栗山と継立を結ぶ約11キロメートルの路線を引き継ぎ、この補助制度の適用第一号となりました。この路線では、定員60名未満の中型バスを導入し、地元のタクシー会社に運行を委託する方式を採用しました。

その後も路線の見直しは行われ、2005年1月には町議会での条例改正により「鳩山循環線A」が廃止されています。また、2006年3月には「地域の『足』を考えるシンポジウム」が開催され、町営バスの年間運行経費が約5,000万円であるのに対し、運賃収入が約500万円に留まっている厳しい現状が示されました。

公共交通としての可能性を広げる試みも行われています。2007年10月には、北海道運輸交通研究センターと連携し、スクールバスを除く一般路線バスを活用して農家から農協の選果場へ野菜を運ぶ、物流機能を兼ね備えたバスシステムの実証実験が実施されました。さらに、2009年11月には町営バスの効率的な運用を図るため、日出線と滝下線の一部便において、利用者の予約に応じて運行する「乗り合いタクシー制度」の試験導入が行われました。

市街地循環バス「くるりん号」とデマンドバス

農村部を中心に町営バス網が整備される一方で、市街地における公共交通の課題も顕在化してきました。病院や大型量販店などの施設が分散し、自家用車を持たない高齢者や子どもといった「交通弱者」にとって、移動手段の確保が困難になっていたのです。この状況に対応するため、栗山町は2015年12月から2016年10月まで、市街地を循環する無料のコミュニティバス試験運行を実施しました。この取り組みは好評を博し、2016年12月1日より、愛称を「くるりん号」として本格運行が開始され、市街地内の移動手段として定着しました。

近年では、広域交通網の変化にも対応しています。2023年10月1日に夕張鉄道バスの栗山駅前と新札幌駅前を結ぶ路線が廃止されたことを受け、同日から町内とJR北広島駅間を結ぶ予約制デマンドバスの実証運行を開始。2024年10月1日からは本格運行へと移行しました。このデマンドバスは、事前に利用者登録をすることなく、電話予約のみで利用することが可能です（予約には締切があります）。

現在の運行状況（2024年4月1日現在）

栗山町営バスの運行体系は、主に「町営バス」「コミュニティバス（くるりん号）」「スクールバス」「デマンドバス」の4種類から構成されています。

- 町営バス: 滝下線（予約運行）、日出線（桜山経由、大井分経由、杵臼経由）、継立線（大井分経由、杵臼分経由、桜山経由）、阿野呂線、鳩山循環線、角田循環線など、町内各地域を結ぶ主要な路線網です。運行日は土曜・日曜・祝日および年末年始を除く平日ですが、滝下線の一部便は土曜日も運行します。

- コミュニティバス（くるりん号）: 栗山駅を中心に、町役場や主要な施設、住宅地などを巡る市街地循環路線です。運行日は町営バスと同様、平日が中心です。

- スクールバス: 主に児童生徒の通学のために運行されており、一般の利用は原則としてできません。土曜・日曜・祝日や夏休みなどの学校休業期間は運休となります。

- デマンドバス: 町内主要箇所とJR北広島駅間を結ぶ予約制バスです。広域移動のニーズに対応しています。運行日は平日のみです。

料金・その他サービス

町営バスとコミュニティバス、デマンドバスの基本運賃は、1回の乗車につき200円（栗山市内-北広島駅間のデマンドバスは600円）です。70歳以上の高齢者、小中学生は半額、未就学児は無料となります。

お得な乗車券として、町営バスとコミュニティバスで利用できる定期券（1ヶ月 7,200円、3ヶ月 20,520円）や、町営バス、コミュニティバス、デマンドバス全てで利用できる回数券（100円券11枚綴りで1,000円）が販売されています。また、2014年からは毎月第3水曜日を「無料乗車の日」と定め、町営バスとコミュニティバスを無料で利用できるようにすることで、町民の利用促進を図っています。

栗山町営バスは、民間事業者撤退後の地域交通の維持から始まり、時代の変化や地域のニーズに合わせて柔軟にサービスを拡充することで、町民生活に欠かせない公共交通としての役割を果たし続けています。

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