栗田寛

栗田寛（くりた ひろし）

栗田寛は、天保6年（1835年）に水戸藩で生まれ、明治32年（1899年）に亡くなった、幕末から明治にかけて活躍した国学者・歴史学者です。幼名は八十吉、初名は利三郎といい、号は栗里と称しました。

生い立ちと学問

水戸城下で油屋を営む家に生まれた栗田は、幼い頃から読書を好み、武士の活躍に心を躍らせました。石河幹脩、会沢正志斎、藤田東湖といった水戸藩の重鎮に師事し、漢学、国学、史学を深く学びました。20歳で『古字集』を著すなど、早くからその才能を発揮していました。

『大日本史』編纂への情熱

24歳の時、栗田は町人出身ながら彰考館に出仕し、『大日本史』の編纂事業に携わります。豊田松岡の指導の下、史書編纂の腕を磨きました。文久元年（1861年）には『国造本紀考』を著し、その将来を嘱望されました。

栗田は、『大日本史』が本紀と列伝のみで、「志」と「表」が未完であることに強い危機感を抱き、特に日本神話の研究に不可欠な「神祇志」の完成を生涯の目標としました。しかし、水戸藩内は政争が激化し、栗田は一時的に彰考館を離れることになります。

彰考館への復帰と『大日本史』の完成

慶応3年（1867年）、『大日本史』編纂再開の機運が高まり、栗田は彰考館に復帰します。明治2年（1869年）には、「表」と「志」の編纂を藩に提言し、尊皇の大道を天下に示すべきだと訴えました。彰考館が水戸徳川家の直属機関となったことで、藩の政治的影響から解放され、編纂事業は大きく前進しました。

明治4年（1871年）に「刑法志」を刊行して以降、次々と「志」を完成させました。廃藩置県後、茨城県や教部省、修史局にも出仕し、神道祭祀制度の整備や修史事業に貢献しましたが、明治8年（1875年）には辞職し、『大日本史』編纂に専念しました。

教育活動と晩年

明治13年（1880年）には、私塾・輔仁学舎を開き、水戸学を継承する次世代の育成に尽力しました。明治17年（1884年）から5年間は元老院に勤務しましたが、再び『大日本史』編纂に専念しました。明治25年（1892年）には東京帝国大学文科大学教授として教鞭をとり、日本史と国文学を講じました。

栗田の教えを受けた世代が、栗田の構想に基づき「志」と「表」の編纂を進め、悲願であった「神祇志」も完成しました。明治32年（1899年）に63歳で亡くなりましたが、『大日本史』はほぼ完成していました。死の直前に従四位と文学博士が贈られ、その7年後には明治天皇に『大日本史』完成の報告がなされました。

業績と著書

栗田寛は、『大日本史』の完成に大きく貢献しただけでなく、多くの著書を通じて、その学問的成果を世に示しました。

神葬略説（1874年）
大日本史音訓便蒙（1875年）
葬礼私考（1876年）
神祇志料（1876年 - 1887年）
荘園考（1888年）
勅語講義（1892年）
祭礼私攷（1895年）
天朝正学（1896年）
常磐物語（1897年）
神器考証（1898年）
古風土記逸文（1898年）
標注古風土記（1899年）
新撰姓氏録考証（1900年）
栗里先生雑著（1901年）

参考文献

栗田勤 編「栗里先生年譜略」『栗里先生雑著 巻首』
照沼好文『水戸の學風―特に栗田寛博士を中心として―』錦正社、1998年
* 照沼好文『栗田寛博士と『継往開来』の碑文』錦正社、2002年


栗田寛は、激動の時代にあって、学問への情熱を燃やし続け、『大日本史』の完成という偉業を成し遂げました。その学問的業績は、今日においても高く評価されています。

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