大津有一

大津有一：『伊勢物語』研究の第一人者

大津有一（1902年3月27日-1983年7月1日）は、20世紀を代表する日本の国文学者の一人です。石川県に生まれ、東京帝国大学文学部国文科を卒業後、第七高等学校造士館教授などを経て、1949年には金沢大学法文学部の教授に就任しました。

彼の専門は『伊勢物語』であり、その研究は日本の国文学界に多大な影響を与えました。1957年には、東京大学より「伊勢物語古註釈の研究」で文学博士の学位を取得。この研究は、それまでの『伊勢物語』解釈に新たな光を当て、後の研究者にも大きな示唆を与えました。

大津の学問的貢献は、単に既存の解釈を精査したにとどまりません。彼は、古註釈を丁寧に検証し、独自の解釈を提示することで、『伊勢物語』の奥深い世界を解き明かしました。彼の解釈は、現代的な視点を取り入れながらも、古典テキストへの深い理解に基づいており、多くの読者に支持されました。

金沢大学法文学部長を務めた後、1966年に定年退官。名誉教授となった後も、皇學館大學教授として後進の育成に尽力しました。その教育者としての姿勢は、彼自身の学問への深い愛情と、国文学研究発展への強い意志を反映しています。

大津有一の著作は数多く存在しますが、その中でも代表的なものとして『伊勢物語古註釈の研究』、『伊勢物語の新しい解釈』などが挙げられます。前者は、彼の博士論文であり、彼の『伊勢物語』研究の集大成と言えるでしょう。後者は、より一般読者向けに書かれた入門書として、広く親しまれています。

さらに、彼は多くの古典テキストの校注にも携わりました。『伊勢物語』の現代語訳や、底本に三条西家旧蔵本を用いた注釈など、彼の深い知識と経験が活かされた貴重な資料を後世に残しています。これらを通して、彼は『伊勢物語』研究の新たな地平を切り開いただけでなく、日本の古典文学研究全体の発展にも大きく貢献しました。

大津有一は、単なる研究者としてだけでなく、教育者、そして日本の国文学界を牽引する指導者として、その生涯を捧げました。彼の業績は、現代の私たちにも多くの示唆を与え、これからも日本の国文学研究の礎として語り継がれていくでしょう。

主な著作・校注作品

『伊勢物語古註釈の研究』(石川国文学会、1954年／八木書店、1986年)
『伊勢物語の新しい解釈』(至文堂、国文注釈新書、1955年)
『伊勢物語』(日本古典文学全集、現代語訳、第5巻、河出書房、1954年) - 校注・共編
『伊勢物語 底本は三条西家旧蔵本』(築島裕共校注、日本古典文学大系、第9、岩波書店、1957年) - 校注
『日本古典鑑賞講座 第5巻 竹取物語・伊勢物語』(三谷栄一共編、角川書店、1958年) - 共編
池田亀鑑『伊勢物語に就きての研究 [第3] 補遺篇・索引篇・図録篇』編 (有精堂出版、1961年)
* 『伊勢物語』(校注、岩波文庫、1964年)

これらの著作・校注作品は、現在でも『伊勢物語』研究において重要な参考文献として活用されており、大津有一の学問的貢献の大きさを示しています。彼の緻密な研究と、明晰な文章は、多くの研究者や愛好家に深い影響を与え続け、これからも日本の古典文学研究を支える貴重な財産となるでしょう。

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