校讐通義

『校讐通義』：古典研究の新たな地平を開いた書物

『校讐通義』は、清朝を代表する考証学者、章学誠（1738年-1801年）による校讐学に関する著作です。もともとは4巻からなる大著でしたが、現存するのは3巻のみとなっています。1巻の所在は不明であり、盗難などによって失われたものと推測されています。乾隆44年（1779年）に完成した本書は、章学誠の学問的業績を代表する重要な文献の一つとして、今日でも高く評価されています。

本書の主題である「校讐学」は、現代でいうところの目録学や書誌学と近しい学問分野です。しかしながら、章学誠の校讐学は、単に書物を羅列し、分類するだけの学問ではありません。彼は、書物の分類を行う際には、その書物の源流や系統を綿密に調査し、歴史的文脈を明らかにすることが不可欠であると主張しました。単なる目録作成ではなく、書物研究そのものが学問的成果となるべきだとしたのです。

『校讐通義』では、古典典籍の研究方法と、その研究成果としての分類について、章学誠独自の理論が展開されています。彼は、書物研究における厳密な考証の重要性を強調し、書物の成立過程や伝播経路、内容の分析を通して、より正確な理解を目指しました。その緻密な考証と論理的な展開は、後世の学者たちに大きな影響を与え、古典研究の方法論に新たな地平を開いたと言えます。

『校讐通義』は、章学誠のもう一つの代表作である『文史通義』と並んで、彼の学問的思想を理解する上で欠かせない著作です。『文史通義』が歴史叙述のあり方を論じたのに対し、『校讐通義』は書物研究の方法論を体系的に提示しています。両書は互いに補完しあい、章学誠の学問体系を構成する重要な柱となっています。

本書は、単なる書物整理の指南書ではなく、古典研究における学問的姿勢や方法論を深く考察した学術書です。章学誠は、書物研究を通じて歴史的事実を明らかにし、歴史理解を深めることを目指しました。その学問的姿勢は、現代においても多くの研究者たちに示唆を与え続けています。

本書に関する研究は、姚名達『章実斎年譜』（1931年）、内藤湖南『支那史学史』（1949年）、井上進「内藤湖南藏本文史校讐通義記略」（『東方學論集：東方學會創立五十周年記念』、1997年）など、多くの研究者によって行われてきました。これらの研究は、本書の理解を深める上で貴重な資料となっています。

『校讐通義』は、目録学や書誌学、そして古典研究に携わる者にとって必読の書と言えるでしょう。その内容は、時代を超えて、学問研究の基本姿勢を問い続ける、普遍的な価値を有しています。章学誠の精密な考証と鋭い洞察は、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれることでしょう。

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