目録学

目録学：中国古典研究の礎をなす学問

目録学とは、前近代中国で盛んに行われてきた図書目録の制作と研究を扱う学問です。中国では古くから図書目録の作成が重視されており、その独自の体系と歴史的発展から、独自の学問分野として確立されました。西洋における書誌学、図書館学、図書館情報学に近しい学問ですが、中国古典（漢籍）の研究に携わる学者にとって、必須の知識と言えるでしょう。

名称と定義

「目録」という言葉は、元々は書物の目次を指していましたが、六朝時代以降、現代でいう「図書目録」を意味するようになりました。中国では、この図書目録に関する学問を「目録学」と呼びます。世界各地で図書目録は作成されてきましたが、中国では学問として独自の発展を遂げ、その体系や歴史は独特です。「目録学」の英訳は一般的に「bibliography」が用いられますが、厳密な意味での対応語は存在しません。

目録学は「校讐学」と呼ばれることもあります。「校讐」は書物同士を比較し、文字を校訂することを指し、現代の「校正」に相当します。両者は対象が同じですが、「目録学」は書物の分類と目録法を、「校讐学」は書物整理の側面を重視する点で異なります。

中国の図書目録の歴史

中国最初の図書目録は、前[[漢]]時代の劉向の『別録』と劉歆の『七略』です。これらは、当時、皇室が所有していた膨大な蔵書を体系的に整理し、その成果をまとめたものです。以降、中国の各王朝は、皇室蔵書の目録作成を制度化しました。宋代になると、民間でも小規模な蔵書目録が作られるようになりました。

これらの目録は、明確な分類体系に基づいて書物が整理されています。古くは六部分類、のちに四部分類（経・史・子・集）が一般的となり、さらに「類」「属」「目」といった下位分類によって、書物が細かく整理されます。分類は伝統的な学問分野に従っているため、書物の位置は、その内容が伝統的学問体系においてどこに位置づけられるかを示しています。完成した目録は、当時の学術全体を体系的・系統的に反映しており、目録を読み解くことで、その時代の精神や学術状況を理解することができます。

目録の形式

伝統的な中国の図書目録は、単なる書物の一覧ではなく、分類全体や各書物に対する説明を付加したものが多く存在します。中華民国の目録学者、余嘉錫は、目録の形式を大きく三種類に分類しました。

1. 小序（各分類の説明）と解題（各書物の説明）の両方があるもの:『郡斎読書志』、『直斎書録解題』、『四庫提要』などが該当します。重点は各書物の要旨の解説と誤謬の訂正にあります。
2. 小序だけがあって、解題はないもの:『漢書』芸文志、『隋書』経籍志などが該当します。重点は学術の起源と発展過程の解明にあります。
3. 小序と解題がともになく、書名だけが挙げられているもの:『旧唐書』経籍志、『通志』芸文略などが該当します。重点は分類基準の明確化と各ジャンルの体系化にあります。

「小序」は各分類に対する学派分析や著述の主旨の説明であり、「解題」は書物の要旨と著者の考察、著者の事跡・時代・学術、そして書物を読み解くための重要な情報を提供するものです。

伝統的な漢籍目録の分類法

古代中国の目録は、主に四部分類に基づいていました。現代でも、多くの漢籍を所蔵する図書館では、この分類法が用いられています。例えば、東京大学東洋文化研究所では、「部」とその下位分類である「類」を用いた分類体系を採用しています。さらに「属」と「目」による下位分類も存在します。

四部分類では、「経部」が最初に位置づけられ、儒教の経典関連の書物が優先的に配置されています。これは、価値判断を含まない日本十進分類法などとは異なる点です。

目録の具体例：『隋書』経籍志

『隋書』経籍志の「経部・易類」は、余嘉錫の分類でいう「小序だけがあって、解題はないもの」に該当します。冒頭で隋代までの書籍の歴史を概観し、その後、『易』に関連する書籍が巻数と著者名とともに箇条書きで列挙されています。末尾には「易類」全体に対する説明（小序）が付けられています。

『隋書』経籍志は、書籍の目録であると同時に、漢代からの学術史を概観するものでもあります。この二面性を持つことは、『隋書』経籍志に限らず、多くの中国の図書目録に共通しています。

目録学の展開

目録学は、狭義では「書籍を分類整理し、解題書録を作成するための学問」です。そのためには、書物の内容と分類の意味の把握が不可欠です。目録作成は、テキストの収集、校勘、定本作成、内容把握、解題作成、分類・記録という流れで行われます。

完成した目録は、古くから学術考証に用いられてきました。余嘉錫は、目録の活用方法として、書物の真偽判定、篇目の考証、書物の性質確定、失われた本や分類の捜索、佚書の考証などを挙げています。

目録を対象とした理論的研究は、南宋の鄭樵『通志』以降に始まりました。清の章学誠『校讐通義』は目録学を大きく発展させ、中国学術史を論じる学問としての意義を明確にしました。民国時代には、余嘉錫や姚名達といった優れた目録学者が輩出し、目録学はさらに発展しました。

目録学理論の形成

鄭樵: 南宋の鄭樵は『通志』に「芸文略」を作成しました。これは既存の目録や自身の知識に基づき、中国の学術史を見通すための目録です。四部分類を基礎としながらも、十二類に分類し、さらに「家」「種」といった下位分類を設けることで、詳細な分類を実現しました。鄭樵は、正確な分類によって書物の内容が明らかになると考え、解題を不要としました。

章学誠: 清の章学誠は『校讐通義』で目録学を発展させました。彼は劉向・劉歆の事業を高く評価し、「書籍を整理・分類することで学術の伝承と発展に貢献する」と述べました。「互著」（一つの書籍を複数の分類に重複して掲載する）、「別裁」（既存の書籍の一部を取り出して別冊として掲載する）といった手法を提唱しました。

余嘉錫: 中華民国の余嘉錫は『目録学発微』を著し、目録学の意義、体制、歴史、分類体系の変遷を論じました。これは、近代の大学の教科書として用いられるなど、大きな影響を与えました。

目録学の重要性と現代

目録学は、中国古典研究に不可欠です。目録は書物の真偽判定、篇目の考証、書物の性質の確認、失われた本の探索などに役立ちます。また、学習者にとって、効率的な学習のための指針となる役割も担います。

現代の漢籍目録では、四部分類に叢書部を加えた五部分類が用いられることが多いです。カード目録やOPAC（オンライン公開目録）などが利用され、書名、撰者、巻数、出版事項などの情報が記録されます。

目録学は、単なる書物の分類整理の技術にとどまらず、中国文化史、学術史を理解するための重要な学問分野であり続けています。

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