章学誠

章学誠：独自の史学理論で知られる清代の実学者

章学誠（しょう がくせい、1738年-1801年）は、中国清代を代表する歴史学者です。字は実斎、号は少巌といい、本貫は浙江省紹興府会稽県です。彼は独特の言語観に基づいた独自の史学理論を展開し、当時の学界に大きな影響を与えました。

波瀾万丈の生涯

章学誠は若い頃から歴史書に没頭し、科挙の勉強よりも歴史書の研究に時間を費やしていました。そのため、科挙試験には何度も失敗を経験します。7回もの郷試に落第した後、31歳でようやく郷試に合格し、41歳で進士に及第しました。しかし、彼は官職に就くことをせず、各地の書院を転々とする生活を送りました。

進士に及第した後は、華北地方の書院を遊学しながら、歴史研究に没頭しました。晩年には、湖北地方の地方史書『湖北通志』の編纂にも携わりましたが、不遇なまま生涯を終えました。

独自の史学理論と『文史通義』

章学誠の史学思想は、当時の主流であった考証学とは一線を画すものでした。彼は、古代の言葉の意味と表現が時代とともに乖離し、その再統合を目指す過程で文学が生まれたと考えていました。特に、儒教の経典である『経書』について、後世の儒学者によって権威付けされたものであり、本来は歴史書に過ぎないと主張しました。

彼の代表作である『文史通義』は、この独自の史学理論を展開したもので、後世の中国史学に多大な影響を与えました。『六経皆史』という概念で知られるように、彼は経書を歴史書として捉え、歴史を理解する上で重要な視点を提供しました。この『文史通義』は、日本の中国学者である内藤湖南によって高く評価され、章学誠の史学思想が広く知られるきっかけとなりました。

影響と評価

章学誠は、劉宗周や黄宗羲ら浙東学派の影響を受け、邵晋涵や洪亮吉らとも交流を持ちました。また、各地の地方志編纂にも従事し、史学研究に貢献しました。彼の学問は、考証学を批判する一方で、経書に特別な地位を与え、文学や学問の起源として位置づけています。この独特の立場は、後世の学者たちに多様な解釈を与え、今日まで議論を呼び続けています。

彼の『文史通義』は、中国学術史における重要なテキストとされており、『六経皆史』というスローガンは、孔子の仁、孟子の性善説などと同じくらい有名なものとして、島田虔次によって評されています。

研究文献

章学誠の研究は、現代においても活発に行われています。彼の思想や著作を分析した多くの研究論文が発表されており、その学問的意義は高く評価されています。代表的な研究書としては、山口久和『章学誠の知識論――考証学批判を中心として――』、黒田秀教「章学誠「史徳」説の背景」、稲葉一郎「章学誠と『文史通義』」などがあります。これらの文献は、章学誠の生涯と業績、そしてその思想的背景を理解する上で重要な手がかりとなります。

章学誠の生涯と業績は、中国史学史における重要な一頁を飾るものです。彼の独自の史学理論は、現代においても多くの研究者から注目されており、その学問的貢献は計り知れません。

もう一度検索