栢野大杉

栢野大杉：天覧の巨木が語る悠久の歴史

石川県加賀市山中温泉栢野町に鎮座する菅原神社。その境内にそびえ立つ巨木、栢野大杉は、地元住民だけでなく、多くの観光客を惹きつける存在です。樹高約54.8メートル、根元周囲約11.5メートルという圧倒的なスケールは、見る者を畏敬の念に染め上げます。

この大杉は、神社境内にある4本の神木のうち最大のもので、古くから「栢野の大杉」や「栢野の大スギ」などと呼ばれ親しまれてきました。昭和3年（1928年）には国の天然記念物に指定され、その歴史的・文化的価値の高さが認められています。さらに、昭和22年（1947年）には、第2回石川国体の際に訪れた昭和天皇が詳細に観察したことから、「天覧の大杉」という別名も持つようになりました。

天覧の巨木：昭和天皇とのゆかり

昭和天皇は、生物学にも造詣が深く、栢野大杉を熱心に観察されたと言われています。その様子は、後世に語り継がれる貴重な逸話となっています。また、山中温泉への帰途には、道端の草花を丁寧に観察し、その様子を皇后に電話で報告されたというエピソードも残されています。天皇の自然への深い愛情が感じられる、心温まる物語です。

歴史と伝説：悠久の時を超えて

栢野大杉の歴史は古く、有史以前からこの地に人が住んでいた痕跡が、神社周辺の高台から出土した縄文土器からも伺えます。平安時代には栢野社として信仰を集め、明治時代には菅原神社に合祀されました。平氏、源氏、朝倉氏、富樫氏といった名だたる武将たちが参拝したという記録も残されており、この地の歴史を象徴する存在と言えるでしょう。

興味深いのは、この大杉の植樹に関する説です。4本の杉が長方形を成すように配置されていること、推定樹齢、土器の出土状況などから、自然林ではなく、神を祀るために人為的に植えられた可能性も示唆されています。

倶利伽羅峠の戦いや篠原の戦いといった歴史的合戦にまつわる伝説も残されています。戦で負傷した武士が、観音様の啓示に従い、この大杉を目指して傷を癒したという物語は、地元住民に長く語り継がれ、草だんごを食べる風習として現在も受け継がれています。

巨木を守る取り組み：未来への継承

樹齢2300年ともいわれる栢野大杉は、その巨体ゆえに、土壌の保護が重要な課題となっています。そのため、参道には木製の浮き橋が設けられ、土壌への負担を軽減する工夫が凝らされています。また、定期的に樹木医による健康診断が行われ、その樹勢は良好に保たれていることが確認されています。

昭和43年（1968年）からは、大杉の保護を目的とした土盛りや柵の設置が行われ、落下した種子から育った若木は、県内外に配布されたこともあります。昭和58年（1983年）の全国植樹祭では、昭和天皇が栢野大杉から採取された種子を蒔かれ、その苗木が神社境内に育てられています。

アクセスと周辺情報

栢野大杉は、国道364号線沿いに位置し、公共交通機関や自家用車でのアクセスも良好です。周辺には、山中温泉などの観光地もあり、歴史と自然を満喫できるエリアとなっています。他の国の天然記念物である杉の巨木も存在し、豊かな自然環境を肌で感じることができるでしょう。

栢野大杉は、単なる巨木ではなく、歴史、文化、自然が凝縮された貴重な存在です。その圧倒的な存在感と、そこに込められた物語は、訪れる人々に深い感動を与えてくれることでしょう。

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