栫ノ原遺跡

栫ノ原遺跡（かこいのはらいせき）

栫ノ原遺跡は、鹿児島県南さつま市加世田村原に位置する複合遺跡であり、1997年に国の史跡として指定されました。この遺跡は、万之瀬川と加世田川の合流点の西側、標高約30メートルの丘陵地にあります。

遺跡の概要

1975年の学校建設に伴う調査を契機に、本格的な発掘調査が実施されました。1989年から1993年にかけて行われた大規模な調査では、21,600平方メートルに及ぶ範囲が調査され、後期旧石器時代から中世に至るまでの各時代の遺構が確認されました。中世には尾守ヶ城が築かれた場所でもあり、その関連遺構も検出されています。しかし、特に注目されるのは、縄文時代草創期の遺構と遺物です。

遺跡からは、縄文草創期（Ⅵa/b層）、縄文早期（Va層）、縄文前期から晩期（Ⅲa層）、そして弥生時代から中世（Ⅱ層）までの4つの主要な遺物包含層が確認されています。さらに、Ⅵ層の下層からは、旧石器時代の遺物もわずかに見つかっています。

南九州における縄文草創期の様相

南九州地方では、数十か所の縄文時代草創期の遺跡が確認されています。この地域は、日本列島の他の地域に比べて温暖化が早く進んだと考えられており、そのため縄文草創期の遺跡には独自の特徴が見られます。特に、約11,500年前の薩摩火山灰層が年代特定のための重要な指標となっており、この層の直下で旧石器時代から縄文草創期への移行が確認できます。

花粉分析の結果から、縄文草創期には照葉樹林が出現し、温暖な気候であったことが示唆されています。栫ノ原遺跡からは、コナラ科、クスノキ科、ススキ属、クマザサ属などの花粉や炭化物が検出されています。

南九州の縄文草創期遺跡では、堅果類を粉にするための磨石や石皿、イネ科植物の伐採に用いた打製石斧などが多く見られます。これは、植物性食料への依存度が高く、それが定住化を促した可能性を示唆しています。しかし、石器の分類については再検討の余地があり、植物資源の高度利用が他の地域に先駆けて進んでいたとする説に疑問を呈する研究者も存在します。

検出された遺構

縄文草創期のⅥa/b層からは、22基の集石遺構、4基の配石炉、8基の煙道付炉穴が検出されました。集石遺構は、拳大の礫を数十個配置したもので、熱によって黒化または赤化しており、炭化物も伴うことから、調理に使われたと考えられています。

配石炉は、地面を掘り窪め、板状の石を並べたもので、通常の炉とは異なる用途が考えられていますが、詳細は不明です。同様の配石炉は、鹿児島市の掃除山遺跡などでも見られます。

煙道付炉穴は、長楕円形の大型土壙と円形の小型土壙がトンネル状の煙道で繋がった構造をしています。栫ノ原遺跡では、煙道の高さ8センチ、長さ推定85センチのものが確認されています。この遺構は、燻製用の施設である可能性が指摘されています。土壙内からイノシシ由来と思われる動物性脂肪酸が検出されたことも、この説を裏付ける根拠の一つとなっています。

出土遺物

縄文草創期の遺物としては、隆帯文土器が2,000点以上出土しています。石器類としては、石鏃、磨製石斧、打製石斧、扁平打製石斧、磨石・敲石・凹石類、石皿、砥石、ハンマーストーン、パンチ、礫器、背部二次加工素刃石器、ピエス・エスキエ、スクレーパー類、石核、軽石製品（人面石偶）、細石刃関連資料などが確認されています。

背部二次加工素刃石器は、鎌形剥片石器とも呼ばれます。しかし、これらの石器が独立した種類ではなく、石鏃や石斧の製作過程で生じた調整剥片を二次的に利用したものであるという指摘もあります。また、従来磨石や石皿とされていたものの中には、ハンマーストーンや砥石、作業台が含まれている可能性も指摘されています。

磨製石斧には、断面が円形で刃部が丸ノミ型の栫ノ原型石斧と呼ばれるものがあります。この種の石斧は縄文草創期から早期にかけての特徴的なもので、丸木舟の製造に使用されたとする説があります。同様の石斧は東南アジアや南中国にも分布していますが、その伝播経路は明らかではありません。

栫ノ原遺跡の集石遺構、配石炉、煙道付炉穴の存在、炭化した堅果類が多量に見つかった例（志布志市東黒土田遺跡）、製粉に使用した磨石・石皿の存在などから、南九州では縄文草創期にすでに定住化が確立していたとする説があります。しかし、同時期の住居跡は鹿児島市の掃除山遺跡の竪穴建物跡2軒のみであり、定住化の確立を断定するにはさらなる資料が必要です。

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