万之瀬川

万之瀬川：薩摩半島の生命線

万之瀬川は、九州南部、薩摩半島の中央部を西から東シナ海へと流れる二級水系指定の川です。その源を鹿児島市下福元町の鬼燈火谷に発し、南薩摩地方を潤す大河として、流域の人々の生活と文化に深く関わってきました。

地理と地形

万之瀬川は、源流から西へと流れ、鹿児島市と日置市、南さつま市、南九州市の境界を縫うように進みます。上流部では揖宿山地の四万十層群を水源とし、中流部ではシラス台地や侵食された盆地を形成します。特に河添渓谷は、阿多カルデラに由来する溶結凝灰岩が織りなす景観美が特徴的です。下流部では、加世田平野という沖積平野を蛇行しながら流れ、吹上浜の南端で東シナ海へと注ぎます。

河口部には広大な干潟が広がり、ハマボウの群落や多様な干潟生物が生息しています。また、クロツラヘラサギなどの貴重な水鳥の飛来地としても知られ、「万之瀬川河口域のハマボウ群落及び干潟生物群集」として国の天然記念物に指定されています。

流域の変遷

万之瀬川は、かつて中流部が永田川、広瀬川、野間川、上流部が清水川と呼ばれていた時代もありました。これらの川が合流し、現在の万之瀬川の姿を形成しています。また、加世田平野は縄文海進時に堆積が進み形成された歴史を持ちます。

水害との闘い

万之瀬川は、その地形的な特徴から水害に悩まされてきた歴史があります。特に、加世田川との合流点付近は低地で川幅が狭く蛇行しており、過去に何度も洪水が発生しました。1682年、1718年、1802年と度重なる大洪水は、川の流れを変えるほどのものでした。その後も、1847年、1866年、1896年、1915年、1928年、1930年と、大規模な洪水が頻発しました。1923年の大洪水を契機に河川改修の必要性が高まり、1932年から1940年にかけて河道の直線化や橋の建設が進められましたが、1971年と1983年には、再び大規模な水害に見舞われています。これらの水害を受け、万之瀬川の拡幅や加世田川の流路変更など、抜本的な対策が実施されました。

利水と都市への貢献

万之瀬川水系は、古くから農業用水として利用されてきました。1727年に建設された阿多新田疏水や、1768年に建設された加世田用水溝などがその代表例です。2004年には金峰ダムが完成し、周辺地域への安定した農業用水供給を実現しています。さらに、鹿児島市では、高度経済成長後の人口集中に伴う水不足に対応するため、万之瀬川からの取水を計画し、1989年から導水を開始しました。2003年には川辺ダムが完成し、水道水や工業用水を鹿児島市へ供給しています。

また、万之瀬川水系の水を利用した水力発電も行われてきました。河添発電所や轟発電所などがその例ですが、現在は統合され万之瀬発電所となっています。

古代からの歴史

万之瀬川の河口付近は、古くから天然の良港として利用されてきました。1996年の発掘調査では、11世紀後半から15世紀前期にかけての陶磁器が多数発見され、中国からの輸入品と国内産のものが両方見つかっています。このことから、万之瀬川河口は、古代の貿易拠点であったことが示唆されています。また、唐仁原という地名は、かつて中国商人が拠点を置いていた可能性を示唆しています。

しかし、1913年の南薩線開通以降、港としての機能は衰退しました。それでも、万之瀬川は、その恵みと歴史を今に伝える重要な存在です。

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