トリニトロトルエン

トリニトロトルエン（TNT）について

トリニトロトルエン（TNT）は、トルエンのフェニル基の水素のうち3つがニトロ基（-NO2）に置き換わった化学構造を持つ物質です。一般的に「トリニトロトルエン」と言うと、2,4,6-トリニトロトルエンを指します。これは、トリニトロトルオールとも知られています。最初は黄色の染料や化学合成の試薬として使われていましたが、発明から30年後に安全で安価な爆薬としての特性が発見されました。

性質

TNTは爆薬の主成分であり、淡黄色の結晶です。日光にさらされることで、色が茶褐色に変わる特徴を持っています。水には溶けませんが、熱を加えることでアルコールやジエチルエーテルには溶解します。金属とは反応しないため、その取り扱いにおいて注意が必要です。火災が発生した場合、泡や水などの水系消火剤を使用して消火できます。

燃焼反応は以下の化学式で示されます。

$$ 2C_7H_5N_3O_6 → 3N_2 + 5H_2O + 7CO + 7C $$

毒性

TNTは有毒であり、肌に触れると炎症を引き起こし、皮膚の色が明るい橙色に変わることがあります。第一次世界大戦中、英国で爆発物を製造していた女性たちがこの影響で皮膚が黄色く変色したことから、彼女たちは「カナリーガール」と呼ばれました。TNTを長期間扱うと、貧血や肝機能障害、免疫系の障害、不妊といった深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。さらには、発がん性のリスクも報告されています。また、万が一TNTを摂取した場合、体内で分解され、赤い尿が出ることもあります。

爆発性

核兵器の威力は、一般的にTNT爆薬の質量に換算されて表現されます。たとえば、「20メガトン級の水素爆弾」は、20メガトン、すなわち2,000万トン相当のTNT爆薬の爆発力を持っています。広島に投下された原子爆弾は、15キロトン、すなわち15,000トンのTNTに相当します。TNTの火薬としての将来性は、BASF社のニトロ化合物に関する試験で確認されています。

熱帯地域では、生産過程でジニトロトルエンやトリニトロトルエンの異性体が漏出することがあり、これが製品の安定性に影響を与え、衝撃感度の上昇を引き起こすことがあります。

製造方法

TNTの製造にはいくつかの方法があります。無分別法を含む1段法は危険で実用的ではなく、主に実験目的で用いられる2段法は、トルエンを混酸で2段階にわたってニトロ化します。最も広く利用されているのは、収率が良く取り扱いが容易な3段法と連続法で、これらは工業的な大量生産に適しています。

価格

TNTの価格は1ポンドあたり約6ドルで、他の軍用爆薬（価格は5ドルから100ドルと幅があります）と比較すると安価です。しかし、質量当たりの爆発威力が低いためミサイルの弾頭には向かず、地雷など質量に制約のない用途に適しています。

歴史

トリニトロトルエンは1863年にドイツのヨーゼフ・ヴィルブラントによって初めて合成され、その際には黄色の染料として利用されていました。爆薬としての可能性が確認されたのは1891年、ドイツの科学者カール・ハウザーマンによるもので、1901年にはピクリン酸に代わって主要な爆薬となっています。

法規制

日本では、TNTは消防法における第5類危険物に該当し、火薬類取締法によって製造や所持に制限があります。理化学的実験目的であれば、経済産業省令で定められた数量以下の製造が許可されています。

規格と主要な爆薬

日本ではJIS K 4813によりTNTの等級が設定されています。他の主要な爆薬としましてはニトログリセリン、ニトロベンゼン、ニトロセルロース、ピクリン酸、RDX、HMX、HNIWなどがあります。

このようにトリニトロトルエンは歴史的に重要な爆薬として利用されており、その特性や取り扱いには様々な注意が必要です。

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