根岸博

根岸 博

根岸 博（ねぎし ひろし）は、明治22年（1889年）10月19日に生まれ、昭和55年（1980年）3月24日にその生涯を終えた日本の著名な泌尿器科学者です。

生涯とキャリア

根岸博は、医師であった根岸三郎の長男として東京府（現在の東京都）に生を受けました。幼少期に埼玉県北埼玉郡埼玉村（現在の行田市）に移り住み、成長しました。学問を志し、東京帝国大学医科大学（現在の東京大学医学部）に進学します。卒業後も母校に留まり、伝染病研究所の所員として初期の研究活動を開始しました。

その後、当時の権威ある教授であった土肥慶蔵のもとで研鑽を積み、東京帝国大学医科大学の助教授に就任。学術の道を着実に歩みました。

昭和6年（1931年）、彼は岡山医科大学（現在の岡山大学医学部）に活躍の場を移し、教授として教育と研究の第一線に立ちました。この岡山での時期が、彼のキャリアにおいて最も重要な一頁となります。

岡山大学では、医学部の教授として多くの後進を指導するとともに、附属病院の運営にも深く関わりました。特に、岡山大学病院の院長を三期にわたって務め、その後さらに六年間、院長職と大学評議員を兼任するという重責を担いました。病院運営と大学の意思決定の両面から、岡山大学の発展に多大な貢献をしました。

画期的な業績

根岸博の最大の功績として特筆されるのが、岡山大学病院長在任中の昭和25年（1950年）に成功させた日本で初めてとなる腎移植の動物実験です。この実験は、当時の医学界において極めて先進的な取り組みであり、その成功は日本の移植医療史における記念碑的な出来事となりました。

彼の先駆的な研究は、尿路結石や前立腺肥大症といった泌尿器疾患の治療法開発に影響を与えただけでなく、犬を用いた腎機能の研究にも新たな道を開きました。この業績は、日本の泌尿器科学および移植学の黎明期において、基礎研究の重要性を示すものとして高く評価されています。

学会活動と社会貢献

根岸は学術界においても主導的な役割を果たしました。昭和27年（1952年）には、第51回日本皮膚科学会および第40回日本泌尿器科学会の会長という重要なポストを務め、両学会の発展に貢献しました。

昭和30年（1955年）に岡山大学を退職した後も、彼の活動は衰えることなく、むしろ多岐にわたる社会貢献へと広がりました。岡山ライオンズクラブや岡山日仏協会の会長を歴任し、国際交流や地域社会の活性化に尽力しました。

また、晩年に至っても知的好奇心と社会への関心を失わず、ミシガン大学と連携して瀬戸内海沿岸部の文化調査に携わったり、岡山県内の文化財保護活動にも積極的に関わりました。さらに、岡山三悪追放協会の会長としては、性病予防などの社会問題解決に取り組み、地方の健全な発展に貢献するなど、専門分野にとどまらない幅広い活動を行いました。

栄典

長年の学術研究と社会貢献の功績が認められ、根岸博は昭和47年（1972年）に勲二等瑞宝章を受章しています。

終焉

昭和55年（1980年）に90歳で死去。その墓所は東京都府中市にある多磨霊園にあります。

根岸博は、日本の泌尿器科学の発展に貢献しただけでなく、先駆的な研究者として、また地域社会に深く根差した活動家として、その名を残しています。

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