根本健

根本健：異色のライダー、そしてバイクメディアの牽引者

元GPライダーであり、バイク雑誌『ライダースクラブ』の元編集長として知られる根本健（ねもとけん）氏は、1948年 5月5日に東京都で生まれました。漫画家・根本進氏を父に持ち、現在は新たなバイクメディア『RIDE HI』のプロデューサーとして活動しています。

多彩な興味と探求心

幼少期、根本氏は父のもとに原稿を受け取りにくる新聞社のバイク「陸王」に心を奪われていました。小学生では鉄道、高学年になると航空機に夢中になり、羽田空港や横田基地で飛行機を見に行く日々を送ります。中学時代には航空機の翼や流体に関する自由研究に没頭し、担任教師を驚かせました。並行して鉄道模型にも熱中し、高度な改造を施した特注品製作のアルバイトで少年時代から十分な小遣いを稼いでいました。

バイクとの出会い、そしてレースへの衝動

高校進学後も鉄道模型のアルバイトは続きましたが、父の知人が勤める防衛庁航空装備研究所へ通うため、バイクの購入を検討します。車種選びのために専門誌を読み始めたことが、彼の運命を大きく変えました。当時、日本のメーカーがWGPに挑戦し始めた時期であり、根本氏は雑誌でWGPの記事に強く惹きつけられます。航空機への興味が薄れる中、二輪免許を取得しヤマハYG-1でバイクライフを開始。バイク通学禁止の校則を破り停学処分を受けたエピソードも残っています。偶然訪れた船橋サーキットでWGPマシンを目にし、GPマシンへの憧れと「マン島TTを走りたい」という夢を抱くようになります。

国内ロードレースでの研鑽

複数台のバイクを乗り継ぎながら、根本氏はチームに加入し、市販レーサーでの走行経験を積みます。その後、本格的なレース参戦を目指し、全日本モーターサイクルクラブ連盟（MCFAJ）の紹介でカワサキのディーラーチームに移籍。高校の期末試験よりもマシンテストを優先し、留年を経験しながらも、短期間でレースの基礎やセッティング技術を習得し、ノービス50ccクラスで2位を獲得するなどの成果を上げます。さらにカワサキ直系のサテライトチーム「アラオカレーシング」に移籍し、ワークスチームと共にテスト走行に参加。しかし、ワークス仕様のマシンで高速転倒し、重傷を負うアクシデントに見舞われ、療養のため1年間のブランクを余儀なくされます。

一度引退、そしてプライベートでの復帰

1970年、怪我から復帰した根本氏は全日本ロードレース選手権ジュニアクラスでチャンピオンを目指しますが、ヤマハの糟野雅治選手に次ぐランキング2位に終わります。翌1971年、筑波サーキットでのレース中に再び転倒し鎖骨を複雑骨折。これを機に大学を中退し、チームからも退会して一度はロードレースから身を引きます。父親の紹介でラジオ局の仕事に就きますが、半年後に白バイ大会取材で訪れた鈴鹿サーキットで、偶然にも全日本選手権の最終戦を観戦。そこで再会した糟野選手から、世界一周旅行で見たヨーロッパでのプライベートライダーの活動状況を聞き、レース活動のみで生計を立てられる可能性を知ります。これが、彼を再びレースへと駆り立てる転機となりました。

プライベートチーム「フライングドルフィン」の挑戦

1972年、根本氏は糟野雅治氏と共に、日本で初めてのプライベートチーム「フライングドルフィン」を結成し、ロードレースに復帰します。活動資金の確保に奔走し、南海部品などからの支援を得つつ、自身もバイク雑誌で試乗記を書くなどして生計を立てました。カワサキ時代の知名度がこの時に役立ったといいます。

賞金レースの実現と国内レース界への貢献

プライベートチームの運営を継続するために不可欠だったのが、レースでの賞金でした。当時の全日本選手権には賞金がなかったため、根本氏らはMCFAJ事務局と協力し、富士スピードウェイで開催されていた四輪の人気レース「グラチャン」の前座として、トップライダーによるバイクレースの開催を企画します。この試みは成功し、全国各地のサーキットに賞金レースが普及するきっかけとなりました。上位入賞者には数十万円の賞金が出るようになりますが、速いワークスマシンに乗るメーカー契約ライダーが賞金のほとんどを獲得するという現実もありました。

プライベイター初の全日本チャンピオン

1973年、根本氏はヤマハ初の水冷市販ロードレーサーTZ350を入手し、全日本ロードレース選手権セニア750ccクラスに参戦します。このシーズン、彼は後のGPライダーとなる片山敬済氏と激しいチャンピオン争いを展開します。ホームコースである富士スピードウェイでのレースでは片山氏に敗れたものの、その後は手堅くポイントを重ね、最終的に全日本選手権史上初となる、メーカーの支援を受けないプライベートライダーとしてのチャンピオンを獲得する偉業を達成しました。

世界への視点、WGP挑戦への壁

全日本チャンピオンの栄誉により世界一周のオープンチケットを手にした根本氏は、1974年に渡米・渡欧し、現地のレース状況を視察。WGPにおいてもプライベイターとして参戦できる可能性を感じ取ります。帰国後、既に開幕していた全日本選手権に参戦しつつ、翌年のWGP挑戦を見据えマシンの大幅な改良に着手します。しかし、WGP参戦には多くの困難が待ち受けていました。FIMインターナショナルロードレースライセンスの取得は、当時メーカー契約ライダー以外には発行されなかったため、MFJの推薦と身元保証を得てようやく取得します。また、WGPへのエントリー自体も、前年のランキングや開催国ライセンスが優先されるため、日本からのプライベートエントリーは極めて困難でした。さらに、マシンを持ち込むための国際通関書類「カルネ」にも、メーカーのワークスマシンが量産車と同額で申告されているという、当時のGP界の知られざる実態を知ることとなります。

WGPの洗礼と経験

1975年、エントリーを直接交渉するためヨーロッパへ渡った根本氏は、ベルギーGP（スパ・フランコルシャン）で初のWGP参戦を果たします。しかし、初めてのコースと高速サーキットに苦戦し、予選落ちという厳しい現実を突きつけられます。この時の経験は、彼の全日本での実績へのこだわりを打ち砕き、世界レベルの厳しさを痛感させました。1976年には、後に多くの日本人ライダーをサポートするメカニック柳沢雄造氏をチームに迎え、ヨコハマタイヤとの新型タイヤ開発も兼ねてWGP後半戦に参戦。1977年には日立ヨーロッパ法人のスポンサーを得て、日本製としては初となるスリックタイヤを投入し、250ccと350ccクラスにフル参戦するなど、プライベートながらも意欲的な活動を展開しました。

ライダーからメディアへ、そして新たな挑戦

1978年、ヨコハマタイヤがWGP参戦を停止したことでスポンサーを失った根本氏は、メカニックなしでWGPに参戦を続けますが、満足なレースができず、西ドイツGPを最後にライダー活動を終え帰国します。帰国後、バイク雑誌『ライダースクラブ』の編集長に就任。WGP参戦時に日本のメーカー関係者と築いた人脈が活かされ、他誌が容易に得られないような優位な取材を可能にし、同誌を人気雑誌へと育て上げました。17年間にわたりオートバイメディアの第一線で活躍した後も、鈴鹿8時間耐久ロードレースやル・マン24時間耐久ロードレースといった耐久レースにはゲストライダーとして度々参戦しています。2020年には新たなバイクメディア『RIDE HI』を立ち上げ、現在もプロデューサーとしてバイク文化の発展に貢献し続けています。全日本チャンピオンからGPライダー、そして著名な編集長へと、根本健氏のキャリアは日本のバイクシーンにおいて異彩を放っています。

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