桂小春

上方落語の名跡 桂小春

「桂小春」は、上方落語において代々受け継がれてきた名跡の一つです。しかし、現在はこれを名乗る者はなく、空き名跡となっています。

初代 桂小春

本記事で主に取り上げるのは、初代桂小春です。本名を玉野博康といい、1894年3月21日に大阪で生まれました。没年は昭和中期頃とされています。

玉野は10代の頃から演劇の世界に身を置き、俳優としての道を歩み始めました。山田五十鈴の父としても知られる山田九州男の一座に参加し、遠く中国の大連へ渡って修行を積むなど、意欲的に活動していました。しかし、一座が解散するという予期せぬ事態に直面します。この解散に伴い、玉野は仕方なく、そして何となく、大連の地で落語家へと転身するという、極めて異色の経歴をたどることになります。

1914年、玉野は日本に帰国します。大連で知り合った笑福亭左鶴に師事し、「笑福亭三代三」を名乗り、当時の上方落語界を牽引する一派であった寿々女会に参加しました。寿々女会が解散した後は、上方落語の大名跡である初代桂春團治の門下に入り、名跡である「桂小春」を襲名。三友派の一員として活動しました。

しかし、約4年後の1918年頃、初代小春は何らかの事情により落語家を廃業します。その後は、再び演芸の世界に戻り、久保田清丈一座の喜劇主任として新たなキャリアを歩んだと伝えられています。

桂小春の名跡を継いだ人々

初代の没後、あるいは初代の活動時期と前後して、「桂小春」の名を名乗った人物が複数存在します。

二代目 桂小春：後に上方落語を代表する存在となる三代目桂春團治が、この名跡を継いでいます。
三代目 桂小春：後に祝々亭舶伝を名乗った人物が三代目を襲名しました。
四代目 桂小春：現在の四代目桂福團治が、福團治襲名前は四代目小春として活動していました。
五代目 桂小春：現在の三代目桂小春團治が、小春團治襲名前は五代目小春を名乗っていました。

このように、二代目以降は著名な落語家たちが一時的に、あるいは襲名前にこの名跡を名乗っています。

代外の桂小春

正式な代数には数えられていないものの、「桂小春」の名を名乗った人物も確認されています。

浦川正男：1911年生まれ。初代桂春團治門下で小春を名乗った時期があるようですが、後に漫才師に転向し、「流行亭歌麿」と改名しました。落語家としての活動期間が短かったことや、漫才師に転向したことから、代数には含まれていません。その活動時期は初代小春の時代と前後すると推測されています。
三代目春團治の長男：三代目桂春團治の長男も一時的に小春を名乗った記録がありますが、入門後まもなく廃業に至ったため、代数には数えられていません。
* 1976年入門者：1976年に桂春團治門下に入門し、小春を名乗った人物もいますが、すぐに廃業したため、こちらも代外とされています。

初代の波乱に満ちた経歴から始まり、多くの落語家や芸人が関わった「桂小春」の名跡は、上方落語の歴史の一端を示すものと言えるでしょう。

出典
『古今東西落語家事典』（諸芸懇話会・大阪芸能懇話会共編、1989年、平凡社）

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