桂文之助

桂 文之助

「桂文之助」は、上方落語と江戸落語の両方に存在する名跡です。上方では特に重んじられる大名跡の一つとされており、現代では三代目がその名を継いで活躍しています。一方、江戸の文之助の名跡は、現在空席となっています。

江戸の文之助

江戸においては、これまで四代の「文之助」が確認されています。

初代桂文之助: 生没年は詳らかではありません。最初は司馬才治良の弟子として才助を名乗っていましたが、後に文之助を経て我楽と改名したことが、当時の記録『落語家奇奴部類』に記されています。
二代目桂文之助: 『文之助系図』によると、江戸四代目桂文治の門下で、「ロビル」（唇）というあだ名を持っていた人物がこの名を名乗ったと伝えられています。嘉永年間（1848-1854）の資料に「文之助」や「文の助」という名前が見られるのは、この二代目と考えられています。
三代目桂文之助: この三代目は、後に二代目三遊亭小圓朝となる人物です。
四代目桂文之助（1855年 - 1922年）：本名は桂仙之助といい、68歳で生涯を終えました。江戸四代目桂文治の次男あるいは三男ともいわれ、六代目桂文治の実弟にあたります。六代目文治の弟子となり、桂文仙、文吉を経て四代目文之助を襲名しました。落語家としては大きく名を成すことはありませんでしたが、筆の達者さから、晩年は三遊派の書記や税務といった事務方を務めました。1917年に設立された演芸会社では、高座に上がらず事務員として活動しました。彼が記した『古今落語系圖一覽表（文之助系図）』は、当時の落語界を知る上で貴重な資料となっています。
五代目桂文之助（生没年不詳）：本名は桂東三といい、享年は明らかではありません。六代目桂文治の実子です。神田の商家で丁稚奉公をした後、年季が明けてから三代目三遊亭圓橘に入門し、橘三と名乗りました。大正期に入ると、北海道小樽に移り、花の家蝶六として幇間になりました。1917年に落語界に戻り、翁家寿々馬として柳派に加わりました。1920年6月に上野鈴本演芸場での興行で真打格の披露を行い、1922年に叔父にあたる四代目文之助が亡くなった後、その名跡を継ぎました。

上方の文之助

上方においても、「桂文之助」は重要な名跡です。

上方初代桂文之助: 後に二世曽呂利新左衛門として知られる人物が、上方初代文之助とされています。
上方二代目桂文之助（1859年 - 1930年）：本名山田萬次郎、72歳で亡くなりました。大坂新町の米穀商の息子として生まれ、幼い頃には後の歌舞伎名優、初代中村鴈治郎と同じ寺子屋に通っていました。1877年頃に初代桂文團治の門を叩き、初代桂小團治を名乗ります。その後、初代文之助の門下に移り、桂桂馬、艶文亭かしく、文の家かしく、桂かしくといった名前を使い分けました。1884年頃には再び小團治、翌年には再度かしくを名乗るなど、改名を繰り返します。1900年6月14日に二代目桂文之助を襲名し、「文の家文之助」の名も使用しました。このように頻繁に名前を変え、寄席によって高座名を使い分けることがあったため、彼の改名・襲名の順序は史料によって異なって記されています。

晩年は主に京都の寄席・笑福亭で真打として活躍しました。1910年には京都東山の高台寺に自身の扇子を奉納し、1920年には落語界から完全に身を引き、引退興行の代わりに高台寺に石碑を建立しました。その後は、高台寺の境内にあった茶店「文の助茶屋」（現在の場所に場所を移して営業を続けています）の亭主に専念し、悠々自適の余生を送りました。この茶屋は主に甘酒を販売していたと伝えられています。この引退には、当時台頭してきた漫才に上方落語が押されつつあった状況への不満があったのではないかと推測されています。彼の墓所は京都市東山区の圓徳院にあります。

二代目文之助は、噺家としては珍しく酒や賭博に手を出さない実直な人柄でした。また、頭の回転が非常に速く、皮肉や警句を得意としていました。多くの新作落語も創作し、現代でも演じられる『動物園』や『指南書』、『象の足跡』、『電話の散財』（二代目林家染丸の十八番としても知られます）、『地震加藤』といった作品は、彼の作と言われています。SPレコードも2枚残されており、当時の彼の芸の一端をうかがい知ることができます。

彼の弟子には、文の家春之助、初代桂春輔、文の家恋しく（後に漫才に転向）がいました。なお、初代森乃福郎は、師匠である三代目笑福亭福松が二代目文之助の実子であったことから、三代目桂文之助を継ぎたいという意向を持っていたとされています。

上方三代目桂文之助: 現代の文之助であり、二代目桂枝雀の弟子である桂雀松が、2013年10月にこの名跡を襲名しました。

（参考文献：『古今落語系図一覧表(文之助系図)』、『落語系圖』、『古今東西落語家事典』など）

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