桂文團治
桂文團治（かつら ぶんだんじ）
上方落語の由緒ある名跡で、文団治とも表記されます。その名は、初代が師匠である桂文枝の「文」、歌舞伎役者である初代市川右團次の「團」、そして桂一門の宗家である桂文治の「治」から一文字ずつ取って名付けられました。四代目の死後、その名跡は空位となっています。代々受け継がれる紋は、初代市川右團次のものに由来する「菱三升に花菱」です。
二代目桂文團治
- - 後に七代目桂文治を襲名
初代 桂文團治
初代文團治は、元は米屋またはかもじ屋の養子であったと伝えられています。素人落語の世界で頭角を現し、三味線を弾きながら高座に上がるというスタイルで人気を博しました。
1871年頃に初代桂文枝の門下に入り、初代桂米丸を経て、1873年から1875年頃に初代市川右團次の懇意を得て「文團治」を名乗るようになりました。同門の初代桂文三、二代目桂文都、初代桂文之助と共に「四天王」と称され、その実力と人気は群を抜いていました。
明治10年代には、商才も発揮し、貸車屋や茶店を経営し財を成しました。平野町御霊神社裏門に自身の席を構え、新聞落語にも挑戦しましたが、あくまで正統派の芸風を貫きました。性格は非常に強気で、初代文三の対抗馬と目されていました。しかし、気性が荒く協調性に欠ける面があり、1879年頃には四天王の他の3人と対立し一門を脱退。その後、贔屓筋や侠客の仲裁も受け入れず、弟弟子であった桂米團治にも愛想を尽かされるほど孤立しました。
ある時、寄席で『蜆売り』を聴いた沖仲仕の荒くれ男が、その情に溢れた内容に涙を流しました。男はその後、楽屋に怒鳴り込みましたが、文團治の機転と誠意ある対応で、逆に大喜びで帰って行ったという逸話が残っています。
1886年、流行したコレラにより、二代目林家延玉、四代目林家正三と共に若くして亡くなりました。道頓堀に新しい寄席を開いた矢先の出来事でした。
初代文團治は、『米揚げ笊』の作者とされ、『三枚起請』や『妾通い』といった色っぽい落語を得意としていました。
墓所は、師である初代文枝と同じ天王寺圓成院（別名：遊行寺）にあります。
主な弟子
- - 二代目桂文之助
- - 二代目桂文團治
- - 初代桂歌團治
- - 初代桂玉團治
- - 三代目桂文團治
- - 桂鯛團治
三代目 桂文團治
三代目文團治は、道頓堀金屋町の公儀銅吹屋・大阪屋儀兵衛の一人息子として生まれました。明治維新によって生家が廃業した後、商家に丁稚奉公に出されました。16歳から放蕩を覚え、初代桂文三時代の桂文左衛門の「軒付浄瑠璃」に感銘を受け、落語の世界に興味を持ちました。
23歳の時に、神戸湊席に出ていた立川三玉齋に入門し、三吉を名乗りました。三玉齋の死後、1879年頃に二代目桂文枝の門下に移り桂文朝。その後、京都の林家菊枝の門下で菊松と名乗り、初代文團治の門下に入り初代米朝を名乗りました。その後、順朝、再度米朝と名前を変えましたが、1887年に素行不良により師匠の勘気を蒙りました。また、稽古の厳しさから逃れたいという思いもあったとされています。その結果、弟弟子であった二代目桂文團治に預けられ、二代目米團治を経て、1908年11月に三代目文團治を襲名しました。
当時住んでいた住所から「畳屋町」と呼ばれ、師匠と共に上方落語界で大きな影響力を持っていました。大看板としての風格と艶のある語り口が特徴で、『五人裁き』、『立ち切れ線香』、晩年には『蜆売り』や『鴻池の犬』などを得意としていました。
また、辛辣な皮肉や小言をよく口にしたため「大毛虫」と呼ばれ、弟弟子である三代目桂米團治は「小毛虫」と呼ばれていました。前座時代には林家とみが小言を言われ苦労したという話も残っています。
小柄な体格で、元々極道者であったため、腹部には女の生首、全身には花札の彫り物を入れていました。座敷でその花札を数えさせ、客から「ふんどしを取れ」と言われた際に片足を上げると、足の裏に雨のカス札が彫ってあるという趣向で人気を博しました。その見事な彫り物は、洋画家の小出楢重がスケッチしたほどで、皮膚は現在でも某大学の標本室に保管されているという噂があります。
晩年は喉頭癌を患い、最後の高座は1923年5月の南地花月での『泣塩』でした。1924年4月の引退興行では声が出ず、観客の涙を誘いました。師である二代目に先立ち亡くなっています。
没後、噺家芝居で使用した鬘などは借金のかたとして吉本興業に渡り、その後三遊亭志ん蔵が譲り受けました。さらに、晩年の志ん蔵を世話していた三代目桂米朝が夫人から譲り受けました。
俳優の嵐寛寿郎は、この三代目文團治の義理の孫にあたります。
主な弟子
- - 三代目桂米團治
- - 二代目桂梅團治
- - 三代目桂塩鯛
- - 四代目桂文團治
四代目 桂文團治
四代目文團治は、京都で生まれ、水芸一座の後見役、新派の俳優、曾我廼家一座の頭取などを経て落語家になりました。1894年5月に二代目桂米團治に入門し桂麦團治を名乗り、その後上方初代三笑亭芝楽の門下で二代目小芝、三升家紋彌の門下で紋兵衛と名前を変えました。1921年以降、旅興行などで講談を手掛ける際は杉山文山を、落語家としては再び桂麦團治を名乗りました。
1949年頃、四代目文團治を襲名しました（実際には戦中、地方巡業の際などに勝手に名乗っていたようです）。兄弟子である三代目米團治、その弟子である四代目米團治とも大きく成長した「米團治」の名跡を止め名としたためです。戦後は半ば引退した状態でしたが、上方落語界の人材不足のため、橘ノ圓都らと共に長老として再び高座に上がることになりました。
上方落語協会が発足すると顧問を務めました。『島巡り』、『三十石』、『鬼あざみ』、『帯久』、『らくだ』など多くの持ちネタを持ち、若い頃には艶噺も演じていました。長い演目をコンパクトにまとめて演じることを得意としていました。歴代の桂春團治に『鋳掛屋』を伝え、三代目には『高尾』も稽古を付けました。東京の五代目柳家小さんには『帯久』と『らくだ』を指導しています。
戦前の高座では、講談の他、「霊狐術」（一種の超能力を装った手品）や「新粉細工」など、色物としても多彩なレパートリーを持っていました。講談は特定の師匠に師事することなく、自身で古本屋で速記本を買ってきて覚えていたそうです。落語の要素や笑いを加えるなど、独自の工夫を凝らしていました。
また、巨体であったことから「ゴジラ」の愛称で親しまれました。喘息持ちで、死因も喘息による心臓発作でした。天理教の信徒でした。
朝日放送には、「ABC上方落語をきく会」で収録された音源が多数残されており、2011年10月にビクターからCD化されました。
上方落語を代表する初代桂春團治とは同い年で、誕生日も2日違いでした。七代目桂文治の弟子なので、系図上は四代目文團治の叔父弟子にあたります。
主な弟子
- - 二代目桂麦團治
- - 四代目桂文紅
- - 桂一二三
- - 桂綾之助
没時まで唯一現役だった弟子・文紅は、五代目文團治襲名を考えていたものの、「まだ尚早」として襲名しないまま亡くなりました。これにより、四代目文團治の系統は途絶えましたが、四代目の兄弟子である三代目桂米團治の系統は、現在の上方落語界で最大勢力となっています。文紅没後、文團治ゆかりの名である米團治の名跡を、三代目米團治の曾孫弟子である五代目米團治が、同じく文團治系の塩鯛の名跡を三代目米團治の玄孫弟子である四代目塩鯛が襲名しています。
脚注
参考文献
- - 『落語系圖』(月亭春松編)
- - 『古今東西落語家事典』（平凡社、1989年）
- - 『桂春団治』（富士正晴著）
- - 『上方落語ノート』（桂米朝著、青蛙房、1978年）
- - 『ご存じ古今東西落語家紳士録』（CD-ROM、APP、2005年）
- - asahi.com : 講釈師や役者…器用に七変化 - 関西 -
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