桑原城の戦い

桑原城の戦い

桑原城の戦いは、天文11年（1542年）6月から7月にかけて、信濃国諏訪郡で繰り広げられた戦いです。甲斐の守護である武田晴信（後の武田信玄）率いる武田軍と、信濃諏訪の領主である諏訪頼重率いる諏訪軍が激突しました。この戦いは、諏訪惣領家の事実上の滅亡を招き、戦国時代の勢力図に大きな影響を与えることとなりました。

戦いの背景

戦国時代、武田信虎（武田晴信の父）と諏訪氏は同盟関係にありました。両家は共同で信濃への侵攻を進め、天文9年（1540年）には、村上義清も加えた連合軍で小県郡に出兵しています。しかし、天文10年（1541年）に信虎が晴信らによって駿河へ追放されると、武田氏の外交方針は大きく転換します。

一方、天文9年の小県郡侵攻で敗北した海野棟綱は、上野の山内上杉憲政に援軍を要請し、上杉軍は信濃へ出兵します。この際、諏訪頼重は武田氏や村上氏に相談することなく、単独で上杉氏と講和し、領地を割譲しました。武田氏はこれを盟約違反とみなし、諏訪領への侵攻を決意したと考えられています。

また、天文11年（1542年）3月には、諏訪頼重が信濃守護の小笠原長時と連合して甲斐に侵攻しましたが、晴信によって撃退されています（瀬沢の戦い）。このように、頼重時代の諏訪家は、気候変動による風水害で領内が疲弊しているにもかかわらず、軍事行動を続けており、その見返りとなる領地の拡大も少なく、人々の心は離れつつありました。

戦いの経過

武田・諏訪両家の関係が悪化する中、両家の国境では小競り合いが頻発するようになります。晴信は、諏訪惣領家に対して不満を抱いていた諏訪庶家の高遠頼継や諏訪下社の金刺氏らを調略し、味方に引き入れました。そして、6月24日、晴信は大規模な軍勢を率いて上諏訪に侵攻を開始します。

6月29日、晴信は御射山に本陣を置きます。これに対し、諏訪軍は7月1日に矢崎原で武田軍と対峙します。しかし、諏訪軍の兵力は騎馬150、歩兵700～800人と、武田・高遠連合軍に対抗できるほどの余裕はありませんでした。頼重は、居城の上原城を自ら焼き払い、支城である桑原城へと撤退しました。

もともと、甲斐一国と諏訪一郡という国力の差、さらに甲斐統一の過程で戦闘慣れしていた武田軍の優位は明らかでした。武田・高遠連合軍は頼重を追撃し、7月3日には桑原城下の高橋口に進出を試みますが、諏訪軍の防衛によって撃退されています。

7月4日、頼重は武田氏からの和睦の申し入れを受け入れ、晴信は頼重の身柄を甲府へ連行しました。和睦の条件では頼重の生命は保障されていたとされていますが、7月21日、晴信はこれを反故にし、頼重とその弟である頼高を切腹させました。これにより、諏訪惣領家は事実上滅亡しました。

戦後

諏訪家を滅ぼした晴信でしたが、これにより諏訪郡全域を平定したわけではありません。諏訪頼重を攻める際に連合した高遠頼継との間で、戦後、諏訪領を宮川を境界として分割することになりました。しかし、この分割に不満を抱いた頼継は、わずか2か月後の9月に上諏訪に侵攻し、今度は晴信と頼継の間で抗争が繰り広げられることとなります（宮川橋の戦い）。

桑原城の戦いは、戦国時代の武将たちの複雑な思惑が絡み合った戦いでした。この戦いをきっかけに、武田氏は信濃侵攻を本格化させ、戦国時代の歴史は大きく動いていくことになります。

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