桑嶋忠純

江戸時代の中期に活躍した御家人、桑嶋忠純（くわしま ただずみ）は、幕府に仕え、特に馬医としてその職務を遂行した人物です。彼は、父である桑嶋忠久の次男としてこの世に生を受けましたが、家系を継ぐ上での複雑な事情を抱えていました。具体的には、彼の兄である桑嶋忠陳には、忠真という名前の実子がいました。しかし、この忠真がまだ幼少であったため、桑嶋家の家督を確実に継承させるため、あるいは当時の他の家門の慣習や必要性から、忠純は実の兄である忠陳の養子となるという形で、家督相続の道筋がつけられました。これは、武家の社会において、血縁だけでなく養子縁組によって家名や家禄が維持される仕組みを示す一例と言えます。

桑嶋忠純の経歴は、江戸幕府の組織内で一歩ずつ昇進していく様子を示しています。彼の公式な幕府への出仕は、宝永7年（1710年）に始まります。同年4月19日、忠純は江戸城において、当時の征夷大将軍であった徳川家宣に初めて公式に拝謁する栄誉に浴しました。将軍への拝謁は、御家人にとって幕府の一員として認められたことを意味する、非常に重要な出来事でした。この拝謁を皮切りに、彼は幕府におけるキャリアを本格的にスタートさせました。

その後、彼の職務は専門的な分野へと向かいます。享保元年（1716年）12月7日、桑嶋忠純は江戸城に置かれた馬医の役職において、見習いとして勤務することになりました。江戸城の馬医は、将軍や幕府の重要な人員が使用する馬、あるいは儀式などで用いられる馬の健康状態を維持し、病気や怪我の治療を行う、非常に専門性の高い、そして責任ある役職でした。忠純は見習いとして、この専門知識と技術の習得に励んだと考えられます。見習い期間は長きにわたり、約22年間に及びました。

長い見習い期間を経て、元文3年（1738年）5月4日、桑嶋忠純は養父であり兄である忠陳の死去に伴い、桑嶋家の家督を正式に継承しました。これと同時に、彼は長年の見習いとしての経験と実績が認められ、江戸城の馬医という正式な役職に就任しました。馬医として幕府に仕え、その専門能力をもって貢献したことでしょう。

桑嶋忠純は、馬医として職務を遂行した後、寛延2年（1749年）2月20日に世を去りました。享年は70歳でした。彼の生涯は、江戸時代の御家人として、また幕府の専門職である馬医として、その役割を果たしたことを示しています。桑嶋忠純に関するこれらの経歴や個人的な情報は、『寛永諸家系図伝』や、より詳細な記述を含む『寛政重修諸家譜 第十二』といった、江戸幕府が編纂させた信頼性の高い公式な系譜書や記録に記載されています。これらの文献は、当時の武家社会の構造や人々の生涯を知る上で貴重な資料であり、桑嶋忠純という人物が確かに歴史の中に存在し、その生涯を全うしたことを証明しています。彼の生きた時代や職務を通じて、江戸時代の社会の一端を垣間見ることができます。

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