梅亭金鵞

梅亭金鵞：剣豪から文豪へ、明治の世相を彩った稀代の文人

梅亭金鵞（ばいてい きんが、1821年5月2日 - 1893年6月30日）は、幕末から明治時代にかけて活躍した作家にして編集者です。本名は瓜生政和（うりゅうまさやす）、通称は熊三郎。橋爪錦造（はしづめきんぞう）という筆名も用いました。

金鵞は、江戸両国薬研堀（現在の東京都中央区東日本橋）に、吉田勝之丞の次男として誕生しました。幼少期から剣術に秀で、柳剛流の父に師事し、1836年から3年間、伊勢で武者修行に励みました。その腕前は江戸の若手剣客の中でも屈指と謳われ、将来を嘱望されていたといいます。しかし、1845年、本郷の瓜生家の養子となり、人生の転機を迎えます。

養子入り後、金鵞は人情本の作家として知られる松亭金水に師事し、「金鵞」の号を授かります。師の指導の下、人情本の執筆に携わる傍ら、自らも創作活動に励みました。その才能が開花するのは、1857年から1863年にかけて執筆された滑稽本『妙竹林話七偏人』です。この作品によって、金鵞は文壇にその名を轟かせました。

剣の腕前もさることながら、金鵞は道化のような愛嬌のある人物として知られていました。その人となりは、彼が生み出したユーモラスな作品にも反映されていると言えるでしょう。

明治維新後、金鵞は『西洋新書』や『西洋見聞図解』といった啓蒙書を執筆し、時代の進歩に貢献しました。一方で、1875年には「橋爪錦造」の筆名で諷刺雑誌『寄笑新聞』を発行し、明治新政府下の世相を辛辣に風刺しました。

この才能は野村文雄によって見出され、1877年、諷刺漫画雑誌『団団珍聞』の主筆に抜擢されます。同誌で『三人同行』『春色花暦』『驥尾団子』などの連載を開始しますが、『春色花暦』と『驥尾団子』は当局の圧力により連載中止を余儀なくされました。しかし、金鵞の諷刺精神は衰えることなく、『驥尾団子』の姉妹誌でも作品を発表し続けました。

1881年には『団団珍聞』を離れ、1884年には鶴声社（書店）の編集・企画に携わります。晩年は『やまと新聞』などに寄稿するものの、時代の流れに取り残される形となり、1890年には脳溢血で倒れ、療養生活を送りました。そして、1893年、72歳でこの世を去りました。

金鵞が残した作品は、滑稽本、人情本、啓蒙書、諷刺小説など多岐に渡ります。彼の作品は、明治維新という激動の時代を背景に、世相を鋭く風刺する一方、人情味あふれる描写も織り交ぜた、独特の味わいを持ちます。『福神漬』の命名者としても知られています。弟は浮世絵師の梅の本鶯斎（うめのほんおうさい）です。

金鵞の生涯は、剣豪としての輝かしい過去と、文筆家としての成功、そして時代の変化の中で葛藤する姿が織りなすドラマです。彼の作品は、現代においても、明治時代の世相を知る上で貴重な資料となっています。また、近年ではいくつかの作品が復刻版として刊行され、改めてその魅力が再評価されています。

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