梅謙次郎

梅謙次郎：日本民法典の父

梅謙次郎（うめ けんじろう）は、1860年（万延元年）に現在の島根県松江市で生まれ、1910年（明治43年）に50歳で急逝した日本の法学者、教育者です。彼は、帝国大学法科大学（現東京大学法学部）教授、東京帝国大学法科大学長、内閣法制局長官、文部省総務長官などを歴任し、日本の近代法典編纂に多大な貢献をしました。

生い立ちと才能

梅謙次郎は、松江藩の藩医の次男として生まれ、幼少の頃からその才能を発揮しました。6歳で大学や中庸を暗唱し、12歳にして藩主の前で日本外史を講じるなど、並外れた秀才ぶりを示しました。東京外国語学校仏語科を首席で卒業後、司法省法学校でフランス法を学び、ここでも首席を占めました。病気のため卒業試験は未受験でしたが、平常点だけで首席卒業という異例の成績を収めています。

フランス留学と博士号取得

文部省の国費留学生としてフランスに留学し、リヨン大学の博士課程に飛び級で進学。博士論文『和解論』は現地で高く評価され、リヨン市からヴェルメイユ賞碑を受け、公費で出版されるという栄誉に輝きました。この論文は、ドイツの法律雑誌にも書評が掲載され、フランスでは法律百科事典に引用されるなど、国際的にも高い評価を受けました。

法学者としての活躍

帰国後、梅は帝国大学法科大学教授として教鞭を執る傍ら、和仏法律学校（現法政大学）の学監も務めました。その後、校長、初代総理として、法政大学の設立、発展に大きく貢献しました。民法典論争では、旧民法典の即時施行を主張する立場を取りつつも、法典そのものには批判的な立場をとり、法典の早期施行を優先し、その不備は後の改正に委ねるべきという現実主義的な考えを持っていました。

民法典編纂への貢献

穂積陳重、富井政章とともに民法典の起草に携わり、日本の近代法典の基礎を築きました。梅は、鋭敏な頭脳と迅速な起草能力を発揮し、起草委員会では、穂積と富井の意見を虚心に受け入れましたが、法典調査会では積極的に弁舌を振るい、原案の維持に努めました。その頭の回転の速さから、「日本民法典の父」と称えられています。

法学理論と実践

梅謙次郎は、自然法論を支持し、フランス法学に親和的な立場でしたが、制定法の枠内で実質的に妥当な解決を速やかに示す実務型の学者でした。彼は、ドイツ法とフランス法の両方の知識を持ち、日本の民法典編纂において、ドイツ民法草案を最も重要な範としたと述べていますが、フランス法系の民法にも理解を示していました。自身の学説に固執せず、柔軟な姿勢で法典編纂に臨みました。

多方面での活躍と急逝

梅は、民法、商法の起草に携わっただけでなく、韓国の法典編纂にも協力し、行政面でも多くの役職を兼任しました。その多忙な活動の中で、1910年、50歳という若さで腸チフスにより急逝しました。

人物像

司法省法学校時代には、仏文教科書300ページを1週間で暗記し、答案に再現したという逸話や、民法典の全条文を暗記していたという驚異的な記憶力の持ち主でした。また、鰻を好んで食べ、法政大学の理事会では鰻定食が慣例となっていたというエピソードも残っています。妻の兼子が小泉八雲の妻セツの親戚であったことから、八雲の相談相手となり、八雲の葬儀委員長を務めたことも知られています。

家族と親族

兄の梅錦之丞は眼科医であり、東京大学医学部の初代眼科教授を務めました。梅謙次郎の子供たちも、それぞれ学業や社会で活躍しました。

栄典と著作

梅謙次郎は、その功績により、勲一等瑞宝章をはじめとする多くの勲章を受章しました。また、『民法要義』や『和解論』など多数の著作を著し、日本の法学界に大きな足跡を残しました。

梅謙次郎は、日本の近代法典編纂に貢献した偉大な法学者であり、その名は後世に語り継がれています。

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