棋聖戦 (将棋)

将棋界には八つの主要なタイトル戦がありますが、その一つに「棋聖戦」があります。産経新聞社と日本将棋連盟が共催し、その年の棋聖位を懸けて五番勝負が行われます。このタイトル名は、将棋や囲碁において抜きん出た才能を持つ棋士を指す尊称に由来しており、特に将棋においては江戸時代後期の天才棋士、天野宗歩に与えられた称号としても知られています。

棋聖戦のルーツは、1951年に始まった産経新聞社主催の一般棋戦「産経杯」に遡ります。その後、準タイトル戦を経て、1960年からは他の新聞社と共同で「王位戦」としてタイトル戦に昇格。しかし、産経新聞社は1962年に王位戦から離れ、新たに独自のタイトル戦として棋聖戦を創設しました。創設当初は、タイトル戦としては唯一の「年2回開催」という形式をとり、これは他のタイトル戦（二日制が主流だった当時）と比べて一日制でスピーディーな「近代的な棋戦」として注目されました。1995年度からは年1回開催に変更され、現在に至ります。2018年からはヒューリック株式会社が特別協賛となり、「ヒューリック杯棋聖戦」として開催されています。特別協賛社の意向により、2025年度に行われる第96期からは、優勝賞金が4000万円、さらに優勝特別賞として1000万円が加わり、合わせて5000万円となることが決定しています。

挑戦者決定方式は時代によって変化しましたが、現在は一次予選、二次予選、決勝トーナメントの三段階を経て挑戦者が決定されます。一次予選には主に順位戦C級1組以下の棋士と、女流棋士も参加可能となっており、二次予選、決勝トーナメントへと勝ち上がっていきます。特に、決勝トーナメントベスト8まで進出した女流棋士には、棋士編入試験の受験資格が与えられるという規定が設けられています。決勝トーナメントはシード棋士と予選通過者計16名で行われ、優勝者が五番勝負で棋聖に挑戦します。各対局には持ち時間が定められており、予選は短め、決勝トーナメント以降は長めの時間が設定されています。

五番勝負は、棋聖と挑戦者が全国各地の名所や格式ある会場で対局します。持ち時間は各4時間の一日制で行われ、近年はインターネットテレビABEMAなどで完全生中継されています。

棋聖戦には、タイトルを通算5期獲得した棋士に贈られる「永世棋聖」という永世称号規定があります。これまでに6名がその資格を得ており、特に中原誠永世棋聖は永世称号獲得の最速記録（四段昇段後5年10か月）、藤井聡太永世棋聖は最年少記録（21歳11か月）を保持しています。これらの永世称号は原則として引退後に就位となりますが、一部の棋士は現役中に就位しています。

タイトル戦における序列は、棋聖戦の歴史の中で大きく変動しました。創設当初は竜王戦・名人戦に次ぐ3番目でしたが、他のタイトル戦の新設や序列変更を経て、一時は8番目まで下がりました。しかし、2025年度からの賞金大幅増額に伴い、序列が6番目に繰り上がることが決まっています。

棋聖戦の歴史は、数々の印象的なエピソードに彩られています。創設当時の1日制は、体調が優れなかった升田幸三実力制第四代名人のために作られたという逸話がありましたが、升田は棋聖位を獲得できませんでした。一方で、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人といった一時代を築いた棋士が多数タイトルを獲得し、永世棋聖の礎を築きました。特に大山十五世名人は、全盛期を過ぎてから棋聖戦を得意とし、再び連覇を重ねました。また、二上達也九段による29期ぶりのタイトル復位や、米長邦雄永世棋聖が永世資格を懸けて挑んだ五番勝負の後手番全勝決着など、記録的な出来事も生まれています。海外での対局や、複数のタイトルホルダー同士による異例の三冠対決なども実現しました。

近年の棋聖戦では、藤井聡太棋聖が一次予選から勝ち上がり、史上最年少でのタイトル挑戦・獲得を達成し、将棋界に新たな歴史を刻みました。また、女流棋士の西山朋佳三段が予選を突破し、男性棋戦の予選で快進撃を見せたことも注目を集めました。その他、史上初めて同一日に二度の指し直し局が行われた対局や、対局中のアクシデントなども発生しています。永世棋聖資格保持者同士が予選で対局するという珍しい組み合わせが実現することもあり、棋聖戦は常に話題を提供し続けています。多くの若手棋士が棋聖戦で初タイトルを獲得しており、登竜門的な意味合いを持つ棋戦でもあります。

このように、棋聖戦は創設から半世紀以上にわたり、将棋界の歴史と共に歩んできた伝統あるタイトル戦です。その形式、参加棋士、そしてドラマチックな展開は、多くの将棋ファンを魅了し続けています。

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